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廻る色 後編



【二次創作SS】【バイト妃原作より】【黎翔×夕鈴】

-*-*-*-*-*

湯殿で倒れてから気が付けば数日経っていた
侍医の許可が出るまで寝台から離れられず、暇をもてあました私は歌の練習をしていた。
始めて聞いたとき、曲調がとても気に入って老師に無理を言って掃除の合間に教えてもらったこの歌。久しぶりに寝台から起き上がり、窓の傍に置かれた椅子に座り庭を眺めながら歌を歌う
曲調は明るいけれど歌詞の意味を思えばとても寂しいこの曲。
歌っていたら侍女さんから声を掛けられる
「お妃様そろそろ陛下がお見えになる時間です」
「はい、分かりました」
椅子から立ち上がろうとした瞬間、陛下の声が聞こえて来た
「我が妃の声はいつ聞いても心地よいな」
「へいか!?」
「その歌、もう一度私の為だけに歌ってくれるか・・・?」
「は、はい」
「では庭に行こう」

陛下は何時ものように私を抱き上げようとしたけれど、私に触れる瞬間に一瞬戸惑ったのを見て私が寝込んでいた間に何があったのか分かってしまった。
この陛下の仕草は私に知られたく無い事があった時にしか出てこない
だから、私が椅子から立ち上がってそっと陛下に抱きついてみた
体を一瞬強張らせ、それでも私に触れない陛下にそっと呟く
「駄目・・・ですか?」
すると陛下の胸に寄せられてそのまま強い腕の力で包み込まれる。
「駄目じゃないよ。嬉しい」
自分から抱きついたのはいいけれど、この後どうしたらいいのか分かからなくてそのまま動けなくなっていると、腰に陛下の手が回されてきてもう片方の手で頭を優しく撫でてくれた。私もしがみ付く手の力を強くすると不意に抱き上げられ庭までそのまま運ばれた
たどり着いた場所は庭にある花畑。あの日、歌を歌っていた場所に向かい合わせに座る。
「聴かせて?」
ここ数日頑張って練習していた歌を陛下の為だけに心を込めて歌う。最後まで歌うと、急に陛下が立ち上がった。
「ねえ夕鈴、一緒に踊らない?」
「でも私、踊った事がありません」
「僕がリードするから大丈夫。夕鈴は僕に身を任せていればいいから」

お互いの両手を手に取りながら1、2、3のリズムで踊るその踊りは、はじめてなのに自然と体が動く。
さっきの歌とはまた違う表情をするその同じ曲調は、歌詞の表と裏を見ているようだった。
踊っている最中に笑いかけると陛下も笑い返してくれる。何気ない陛下の仕草に幸せを感じ、陛下の笑顔が送られてまた幸せを感じる。
陛下から何度も何度も幸せな贈り物をもらった気がして幸せだった。

「きゃぁ!」
「夕鈴!」

そんな事を考えながら踊っていたら、足がもつれて転んでしまった。
「ご、ごめんなさっっ!!」
慌てて起きようとしたら、それを咎められるようにして抱きしめられてしまう。
「我が妃は・・・積極的だな」
「なっっ!!!」
今の私達は陛下が仰向け、私がその上に向かい合わせで乗っている状態
「退きます、退きますから放してください!」
「い、や」
たった二文字だけれど、陛下の曲げる事のない意志が込められた言葉が私の体を動かなくさせる。
暫くそのままの体勢でいて陛下がようやく起き上がると、膝の上に乗せられている時のような格好になり、また私を抱きしめる陛下の腕の力が強くなった
「あったかい・・・」
今は春、天気がいいから日差しが暖かい
「春になりましたから暖かいですね」
「ううん、違うよ。君が暖かくて安心する。この前は氷のように冷たかった」
私の肩に顔を埋めながら陛下は搾り出すような弱々しい声
「寒いなら・・・何かお作りしましょうか?それともお茶をお淹れしますか?」
「両方って言ったら?」
「では使用許可を貰ってきますから、放してくださいっ!」
陛下の胸に手を置いて、腕を精一杯伸ばして放してくださいと抗議する
これ以上は身が持たない
そして伝わる唇への熱、逃げたくても逃げられない腕の中で何をされたのか理解すると必死に抵抗して陛下の胸を嫌という気持ちを込めて叩く。
それでも抱きしめる腕の力は弱まらず、陛下の顔も近いまま。腕の力が弱まった僅かな隙を突いて陛下から逃げた
「ば、ば、バイトで遊ばないで下さい!!!」


今日は珍しく夕鈴が自分から僕に歩み寄ってくれて、それが嬉しくて我慢しきれずに口付けを送ると逃げられてしまった。
抱きしめるように夕鈴の全てを腕の中に閉じ込めたいと思ってしまうがそれは叶わぬ願い
何もかも忘れて裏も表もなく、君の笑顔の為だけに生きて行きたいと願うのも許されない
せめて君の借金が終わるまではたとえ君にとって僕が銀を腐敗させてしまうような毒だとしても傍にいさせてほしい。
借金が終わったら時計の針を撒き戻したい。今度はこんな辛い思いさせないようにするから。
何度同じ時を廻るように繰り返したとしても、僕は君を僕の物にしたい

-*-*-*-*-*


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廻る色 前編


朝日が昇りきらない頃に夢をみて目が覚める。夢を見るのはそう珍しい事ではないが最近見る夢は嫌な夢だった。
僕が夕鈴に触れると、触れた所から夕鈴の全身が黒くなっていく夢で、それはまるで毒に反応して黒くなった銀食器のようだった。
外にいた隠密に夜中の出来事を聞くが特に変化は無いという。
この夢を見るようになったのがきっかけで夕鈴周辺の警護を多少強くしていた。

額に浮き出る汗を拭き、湯浴みの準備をさせながらずいぶん自分が弱くなったと少し笑った。
僕が今一番恐れることは多分夕鈴が居なくなる事。
昔、失うものが何も無かったから何でもできた。
でも今は? 今は彼女を守ろうとする気持ちが黒い自分を煽っている。
そんな自分を夕鈴には知られたくないと思うのは我が侭だと分かっている。
けれど最近よく見てしまう嫌な夢はそれを知ってしまった夕鈴が、僕から離れて行くという方向に考えを向けさせるには十分すぎる内容で、その気持ちが何度もその夢が繰り返えす。
何度も繰り返す嫌な夢と考え。せめて目が覚めている間はそれを忘れたい。
我が侭から来た思いを忘れさせてくれるのは、そんな我が侭を僕に言わせた夕鈴ただ一人。
午前の政務が終わると庭にいるという夕鈴の所へ足早に向った。

庭に行くと優しい歌が聞こえて来る。夕鈴の歌声。庭にある花に囲まれた場所の中心に座り歌を歌っている。
侍女が遠くに離れた位置で待機していたから合図を送り下げた。木の上にいた浩大も僕が来たから遠くに行った。
夕鈴が歌っていた歌の歌詞は、願いを叶えたい人のその願いと想いを歌った歌詞で、その歌を少し離れた所から耳を澄ませて聴いていた。
異国の曲調で始めて聴くはずなのに夕鈴が歌っているから心地よく感じる
歌詞がはっきりせずに歌えない部分がでてくるが、それさえも心地いい。

歌に夢中になっている夕鈴にそっと近づき、抱きしめる。歌声が止まるけれど「続けて」と囁けばまた歌が始まる。
この声を子守唄に夜眠ればあの嫌な夢は見なくなるのだろうか?
夕鈴は何度も歌を繰り返し歌ってくれ、それは侍女が昼餉の準備が調ったと呼びに来るまで繰り返された。
「ごめんねずっと歌わせちゃって。喉、痛くない?」
「大丈夫ですよ。老師に先ほど教えていただいた歌なのですが陛下にいち早くお聴きいただけてうれしいです」
食後のお茶を飲みながら夕鈴と会話をしていた。
「不思議な歌だね」
「はいとても気に入ったので無理を言って教えていただきました」
でも練習の途中だったので少し恥ずかしいですと笑った夕鈴が可愛い。
「今度完璧に歌えるようになったらまた聞かせてね?」
「はい、勿論です」
昼餉の時間はここで終わり。この時間だけ撒き戻してずっと夕鈴の傍にいたかったけれど、そんな事は出来るはずが無い。
耳元である言葉を囁けば夕鈴は夕日のように顔を赤くする。
くるくる変わる表情見ると、今朝見た悪夢を思い出し、胸の奥で少し違和感を感じたけれど気のせいだと思い込む事にした。



夕刻、夕鈴は湯浴みの準備をしていた。王宮での生活は常に誰かが傍に居る何かと気を使う生活ではあるが、湯浴みの時だけは一人になれる
朝は目が覚めるとすでに侍女が待機し、そのまま身支度と見つめられながらの食事。
政務室へ行く途中も侍女が後ろを一定の距離を保ちながらつき従い、部屋で一人になっていても、小さな声を発せば直ぐに返事が返ってくる位置に常に誰かが控えているから気が抜けない。
立ち入り禁止区域の掃除をしている時は浩大や老師が必ず傍に付いている。
妃という仕事の特性上、常に誰かが傍に控えているのはしかたのないことなのだがそれでも少しは一人の時間が欲しい。
時折夕鈴が眠るまで傍に居る黎翔も湯殿の中までは、よほどの事が無い限り入ってこない。
一日の中で唯一ひとりになれるのは湯浴みの時間だけであった。

「は~。今日も疲れた・・・・」

昼間は政務室通いや掃除。さらに妃教育をするため普段はゆったり過ごす時間が少ない。
僅かな時間とは言え、今のうちに疲れを少しでも取っておかないと明日身が持たない

唯一とは言え下っ端妃である夕鈴が使う湯殿は他の妃が使う湯殿に比べ少し狭いが、夕鈴にとっては十分な広さだ。このバイトをしていて良かったと思える事の一つは毎日湯浴みが出きる事。

妃衣装を脱ぎ、湯殿に入ると良い香りが漂ってくる。今日はこの後黎翔と夕餉を取る事になっているため、侍女が気を利かせて花湯にしたのだろう。
用意されていた花湯には小さな花が無数に浮いており、それらが薄暗い湯殿の中に差し込む夕光に照らされ幻想的な雰囲気を出していた。

湯殿で繰り広げられている花の舞を目で楽しむと最初に体を洗い、洗い終わると湯の中に入り手足を伸ばす

「はぁ~、気持ちいい・・・」

今日一日の妃演技や掃除で強張ってしまった肩のこりをほぐし、足もゆっくりと揉む。
深呼吸をしてそのままゆったりと肩まで湯に浸かる

すると、急に悪心に襲われた。
思わず吐気を抑えようと手で口を被うとさらに吐気が強くなってくる。
何か悪い物を口にしただろうか。最後に口に入れた物を考えるけれど、最後に物を口に入れたのは午後の立ち入り禁止区域の掃除が終わってから老師に淹れてもらったお茶。
それも大分前だ。そもそも老師が渡してくれたものの中に毒が入っているはずが無い。
湯に入る前、体を洗った時には特に体調の変化は無かった。

一瞬、気のせいかとも思ったが、我慢できないほどの強い吐気は気のせいではない
吐気の次は心臓がありえない速さで鼓動を打ち始め息が出来なくなってくる
最後の力を振り絞り、湯の中から這い上がり呼吸を整えようと深呼吸をするが、それは逆効果にしかならなかった。
手足が痺れ出し思うように動かせず、湯殿の入り口までたどり着く前に床に倒れてしまい、その反動で胃の中の物を全て吐き出してしまった。
嘔吐した物が広がった床は石で出来ている。女官によって床も温められていたとは言え、冷たさが直に伝わり全身が震え、それ以降は声が出なくなって侍女も呼ぶ事もできなかった。
視界もゆっくりと狭ってきており、それは意識を手放す寸前だというのが自分でも分かる。途中、心の中で必死に叫んだ言葉は誰にも届く事は無かった。




夕鈴が湯殿の中で意識を無くした時と同じ頃、黎翔は夕鈴の部屋に来ていた。
少し早めに仕事が終わったため、中途半端に終わってしまった昼餉のお詫びと歌を歌ってくれたお礼をかねて夕餉が始まるまでの短い時間を2人で過ごそうかと思ったのだが夕鈴の姿はない。
「妃は?」
「は、はい、お妃様はただいま湯殿でございます」
黎翔をそれを聞いて珍しいと最初に思った。普通は黎翔が来るまでに準備を全て終えて部屋にいる。早めに来てしまったから用意が終わってなかったにしても遅すぎる。
少しの不安を感じながらも一人で待っているのは退屈だと思った黎翔は、夕鈴を湯殿まで迎えに行くことにした。
女性が身支度を整える所に入って行っては行けないとは、頭で分かってはいるが、それが終わるまで待つ時間が勿体無い。
支度の最中に入っていけば夕鈴はどんな反応をするのか想像すると思わず笑みが漏れるが、湯殿まで行く廊下はまだ人の目のある場所。
ここで表情が崩れている王を女官達に見られる訳にはいかない
一つ咳払いをして顔を正すと目的の場所に向って足を速める。

夕鈴が湯浴みをしているはずの湯殿につくとなにやら扉の向こうが騒がしい。黎翔が部屋に来たとの知らせを聞いて慌てて支度をしているかと思ったが少し様子が違い、ここ最近黎翔が感じていた小さな不安が悪い方向へと考えを向けさせる。
そういえば先ほど慌てて走る女官を遠目に見た。
予想が外れてほしいと黎翔が願いながら扉を開けると、目に入ってきたのは侍女、侍医、老師に囲まれながら青い顔で嘔吐を繰り返す夕鈴だった。

慌てて駆け寄ると湯殿のなかに漂っていた花の香りに黎翔の表情がゆがむ。
色々な匂いに混じって気が付きにくいが、湯の中に浮かぶ花の中には予想通りの物がそこにあり、思わず舌打ちをした。
一瞬黎翔は我を忘れそうになるが、それをさせなかったのは夕鈴の弱々しい声だった。
「へ・・・い・・・?」
「夕鈴? 大丈夫?」
「ごめんな・・・」
喋っている途中夕鈴は再び嘔吐に襲われ、胃の中の物を懸命に吐き出そうとするがすでに胃の中には何も無く、何も無い所から何かを出そうとするその音はとてもではないが辛そうで黎翔の表情はより一層険しくなった。
「妃を部屋へ連れて行く!!」
体の上に掛けられていた布ごと夕鈴を抱き上げる。伝わってくる体温が何時もの心地いい温もりではなかった。


数刻後、夕鈴の部屋には何度も嘔吐を繰り返す夕鈴とその背中をさする黎翔、騒ぎを聞きつけやってきた李順、それに震えながら容態を説明する侍医の姿があった。
「お妃様の嘔吐、震えは花湯の中にまぎれていた毒花が原因かと思われます。湯に毒が染み出し毒を含んだ湯気やお湯が僅かに口の中に・・・」
「もういい」
全身を震わせながら嘔吐し続ける夕鈴を介抱する黎翔の声は冷たい。
花湯に紛れていた毒花は解毒剤がない物で、後は夕鈴がいかに自分で回復するかが鍵なのだが、湯殿から部屋に運んで大分時間が経っても呼吸も時折不自然に速くなり、嘔吐が収まらない。目を離せば嘔吐したもので窒息してしまう可能性もある。
また水を飲ませれば全てそれを吐き出してしまうため薬湯も、水分すらまともに取らせる事が出来ず目が離せない状況が続いていた。
楽になるよう夕鈴の背中をさすり続ける黎翔の手には自然と力がはいる。

「へいか、私は大丈夫で・・・ごほっ」
「君の大丈夫は信用できない」

少しでも怒りの表情を夕鈴に見せれば不安がってしまうが、その表情を隠す事ができない。
なるべくにこやかな表情を出してはいるつもりだが、黎翔の内心は腸が煮えくり返る思いだった。
嘔吐や全身の震えが収まりようやく夕鈴が眠りについたのは夜も更けてからで、水分はまだ受付けないものの当初よりも落ち着いてきた夕鈴の表情を見た黎翔はほっと胸を撫で下ろす。

「・・・老師、今回の件どういう事だ?」
眠る夕鈴の手を握りながら送られる視線に老師と李順は冷や汗を掻いた。
「湯殿に入れる花はわしが用意しましたが毒花なぞ、入れた覚えありませんのぉ」
「ふん、今回の件は鼠が入り込めるだけの隙を作ったお前の責任だ」

握っていた夕鈴の手をそっと掛け布の中に入れ、髪を撫でてからおでこに口付けを落とすと帳を下ろす。
隣の部屋で会話の続きが始まった。

「李順、もう雇い主は分かっているんだろうな?」
黎翔は無言で差し出された報告書に目を通すとそのまま判を押し立ち上がる

「さてどれだけ耐えられるかな・・・」
そう口角を上げ、不適に笑いながら言う言葉はこれから捕まる雇い主がどれだけ苦痛に耐えられるかなのか、黎翔がどれだけ怒りを押さえつけられるかなのか、どちらにも取れるその言葉に部屋にいた全員が震え上がった。



赤い飴 8.5



【二次元創作SS】【黎翔×夕鈴】【本物夫婦】

if設定:夕鈴は何処かの国の皇女です。

-*-*-*-*-*

「本当はそんな口実無くても君を迎えてあげたかったんだけれど、心の準備って必要でしょ? お互い。で、君は何も覚えてない?」

「王族に生まれた以上は望んではいけない事なのかもしれないけれど、普通に恋をして生きてみたかったです」

そういうと僕に抱きつく夕鈴の手に力が入る。

「その相手は僕じゃ無いの?」
「陛下こそ、忘れましたか? あの約束」
「忘れてないよ。そのために僕は今まで必死になっていたんだから―――」



それは昔僕が辺境に送られ幾つかの時が経ったとき、今まで放置されていたのに急に近隣諸国の会合に同行せよと言われて同行して行ったときの話

*-*-*-


会場に到着してこの部屋で待機していろと言われて珍しく大人しくしていた。
ここは他の王族も来ている、何気ない些細な事が戦争になりかねない

でも少しならいいかと思ってこっそり部屋を抜け出した。

奥深い森の中にあった建物を背に歩き始めると川についた。季節は秋、葉が色を変え始めるこの季節は少し冷たい風を運んでくるけれど、特に気にせず川のほとりに腰を落として横になった。
横になっていると誰かの気配がしたから思わず身構える。周囲を確認すれば籠を持った女の子達が赤い木の実を収穫している所でそれならと特に気にせずに横になり続けた。

「どうしたの? ここで寝ていると風邪引くよ?」

急に声をかけられて吃驚して声のした方向を見ると、さっき赤い木の実を摘んでいた子が僕の傍にきて顔を覗き込んでいた。

「どうもしないよ? ただここで横になるのが気持ちよかったんだ」

でも風邪を引くからそろそろ起きた方がいいよ? そう心配そうな表情をしつつ笑う女の子は可愛い。
風になびく髪の手入れのよさや服装、遠くに控えているように居る女性を見ると少し身分がある子に見える

「君は何をしていたの?」
「私? 私はねこの赤い実を摘んでいたの。よかったら一つ食べてみる?」

持っていた籠をぐっと指し出し、また笑うその女の子の笑顔がまぶしい
けれどこれを食べて大丈夫だろうかと少し疑ってしまう。でも差し出された物を食べないのも・・・なんて思って一つだけその赤い実を貰った

女の子は籠一杯に入っていたその実を僕が一つ摘んだのを見届けて自分も一つ実を食べていた。それを見て僕も実を一口齧ると、口の中には酸っぱい味が一杯に広がる。

「このままだと私はあまり好きじゃないけど、周りに飴を掛けると美味しいの」

その後は実の活用方法や込められた言葉をずっと女の子から説明された。普段なら一方的に説明されるのは好きじゃ無いけれど、その女の子が言うならと相槌をうんうんと打つ。
その説明が終わりかけになると、女の子の付き人だろうか、遠くに控えていた女性が「そろそろお時間です」と制した。

「ごめんね、私はもう行かなくちゃ! 明日また会える?」
「・・・確約は出来ないけれど多分会えると思う」
「じゃあまた明日ね! 約束!」

約束か・・・ 僕が居る世界では約束なんてあって無いような物
さて戻るか・・・


 次の日も用意された部屋に待機していろと言われて退屈な時間をすごしていた。自分は何のためにここに連れてこられたのか少し分からないでもないけれど、誰かに利用されるのは正直嫌だった。
でもそんな思いとは裏腹に、自分の足は自然と昨日の川のほとりに向かう。川に到着すると昨日の女の子が小さな包みを持って川のほとりに座っていた。
僕に気が付くと昨日のあの笑顔を僕に向けてくれた

「こんにちは、時間の約束をしていなかったからずっとここでまっていたの」

何時も笑顔のこの子は、どうして僕にそんな笑顔を向けてくれるんだろうと思いながらもこっちも精一杯の笑顔で返す

「僕のこと、ずっと待っていてくれたの?」
「うん、昨日言ったこれを食べてもらいたくて」

そう言って包みの中を見せてくれると昨日の赤い実が何個か一列に串に刺さって、飴がかけられている物が何本も入っていた。
一つ、僕に手渡してくれると女の子は僕の目の前でその飴を食べた。

「おいしいよ?」
「うん・・・、頂きます・・・」

促されて僕もその飴を食べてみると昨日とはまた違う味がして美味しかった。
そのまま他愛のない話をしてまたあの約束をする時間がやってくる。

「明日もまた会える?」

少し悲しそうな表情で言われるけれど、明日は帰国の日

「ごめんね、多分もう会えない。明日には帰らなければいけないから」

それにこれ以上居心地のいい女の子の傍にいたら、帰れなくなる。だからその女の子とある一定以上の距離を取る為に後ろに一歩下がった。そんな僕に手を差し出して追いかけてこようとし、転びそうになる女の子を慌てて受け止めた。その瞬間に舞う香りと感触に心を奪われる

「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい」
「ごめんね、これ以上は無理。帰らなきゃ」

そう言って後ろを向いて歩き出した僕は、近隣諸国の王族との会合の為に用意されていた会場の中にある自分の為に用意されたという部屋に戻ってきてずっと考え事をしていた。
転びそうになった所を助けたとき、腕の中にすっぽりと入ったあの女の子の体は僕と比べてとても小さく思えた。
あの女の子、名前を聞くのを忘れてしまったけれど、できればまた会いたい。
でも今日の夜は宴、その後は帰国。帰国したらもう多分会えない。あの笑顔が欲しい・・・。
あんな笑顔を無邪気に僕に向けてくれる人は始めて・・・。

そんな事を考えていたら宴の時間になっていた。夜の宴の会場、最後だからと僕も宴の会場にいた。
周りの大人たちの表情の裏にある思惑は何かと思いながら過ごす宴、周りを見渡すと見かけないはずの姿があった。そこから僕に注がれる視線を感じ取り、宴をそっと抜け出して誰も居ない廊下から庭を眺めていたら視線の主がやってきた。

「やあ今晩は、また会えたね」

視線の主に僕は声を掛けた。すると、また会えたと昼間の笑顔を僕に向けてきた。
特にお互いなにも言われなかったけれど、この国の王族の席にこの女の子はいたし、僕は僕でそういう席に座っていたからお互い何も言わない。
そのあと時間がゆるすかぎり、他愛のない話をしてまた約束をする

「ねえ、また会える?」

時間がきてその場を立ち去ろうとするその女の子の手を行かないでと言う代わりに握りながらそう言った。
多分この会合に僕が連れてこられたのは、どうでもいい皇子のこの僕とこの子を会わせるため。
大人の汚い裏事情通りになるのは嫌だったけれど、今回だけはその通りになるのも悪くないかと思った。

「私・・・ 赤い飴を見て、あなたの事を思い出すね」
「うん・・・ 僕は何を見て君の事を思い出そうかな?」

「約束しよ? また会おうって」

精一杯背伸びをして僕が握っていなかった方の手の人差し指を立て、その指を僕の唇の上に置かれながらそんな事を言われて思わずクスリと笑った

「また会おうね」

そこで時間切れ。名残惜しくその子の手を放し、その場を立ち去った方向をずっと見つめた。そしてその後は会える機会もなく、帰国の途についた。

*-*-*-

 四阿の中、僕に抱きついたままの夕鈴と昔話をしていた。
「その時からです、赤い飴が好きになったの」
「嬉しいなー 覚えていてくれたなんて」
「性格が違いすぎて同一人物だと分かるのに時間がかかりました。」
「この性格をいきなり出すと君が混乱すると思ってさ。他の人に出す訳にいかないから2人きりの時にこの性格少しずつ出して僕の事覚えているか試していたんだけれど、覚えてないみたいだったからさー。本気で傷ついたよー。」
「・・・ごめんなさい。でも早くその事を言わなかった陛下も悪いです」

そんな話をしていたら、後処理が終わった李順が四阿にくる

「陛下、捕らえた者が全員牢に揃いましたので取調べを・・・」
「あぁ・・・」
夕鈴を四阿の椅子に一人で座らせて「またね?」と額にキスを送り、瞬時に赤くなる夕鈴を置いて牢に向かった
最後に残した言葉には青くなっていたけれど・・・。

「陛下・・・ もしかして・・・」
「財政難の件、お前からばれたぞ?」

青い顔の李順を見るのは少し楽しい。

「シラを切り通せばよろしいのに」
「いつかはばれる事だ」

冬になったらあの赤い飴をまた夕鈴に送ろう、僕も久しぶりに食べたい。
夕鈴は恋をして生きてみたかったって言っていたけれど、僕も相手が夕鈴なら恋をしながら生きてみたい。
王族として生まれても、あの赤い飴に使われている実に込められた言葉通りに生きていいのなら、今まで夕鈴が大人になるまで待ちながら君を手に入れようと必死になっていた過去なんて、きっとすぐにどうでもよくなる。


*-*-*-*-

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赤い飴 8



【二次元創作SS】【黎翔×夕鈴】【本物夫婦】

if設定:夕鈴は何処かの国の皇女です。

-*-*-*-*-*

 次の日離宮に残してきた兵士達が戻ってきたとの報告を受けてある人物を人気のない部屋に呼び出させていた。
部屋には僕と李順、屋根裏に浩大。目の前にいるその人物を睨みつけながら李順と退路を絶ちにらみ合う。獲物となった人物はこの後起こる出来事を想像しているのか、それとも僕から注がれる視線に脅えているのか、恐怖で体が震えているようだったけれどそんな事はどうでもよかった。

「お前か・・・ 后の食事に・・・ しかも私と一緒の時にだけ毒を入れていたのは・・・」
「そんな恐れ多い事、私しません!」
「何とでも言うがいい、今の私は周りの声が何も聞こえなくなるくらい怒っているからな――」

腰に下げている剣を抜くとカチャっと音がする。
右手で剣を持ち、軽く素振りをすると、床に座り込む侍女の表情は青くなっていく。薄暗いこの部屋にでも分かるくらいに。

僕の左側にそういえば李順がいた。このまま処分するのもいいけれど少しは楽しんでみよう。

「そうだ李順、確かこいつの家の者は今朝全員捕らえたんだったな――」
「ええそうです。陛下が昨日の夜のうちに全員捕らえろと言うので捕らえました。残るのは正妃様付きの侍女であるこの方・・・ だけです」
「だ、そうだ観念しろ・・・ それとも・・・ この場で死を望むか・・・?」

昨日狩に同行し、兵士たちと一緒に後に戻ってきたこの元侍女を王宮と到着と同時にこの部屋に呼び出した。
体を震わす夕鈴の侍女、驚いた表情を一瞬するが恐怖でこれ以上は声は出ないらしい。目だけが泳いでいる。やっとの思いで絞り出される言葉は何だろう?

「昔から陛下は妃は一人で良いと仰られていました。その一人に私の家の姫がその一人になるように昔から準備していましたのに!」
「お前の家系の娘達は浪費家で有名だろ――? そんな娘達が私の唯一なんて笑わせてくれる」
「仮にもこの国は財政難ですからね、貴方の家系の姫なんて最初から選択肢に入っていませんよ」
「正妃様が居なくなれば、私の家の姫様が陛下の妃になれるはず――!」
「ですから、貴方の家系の姫なんて選択肢にすら入りませんよ」

眼鏡を指でくいっと上に上げて腕を組む李順がやるその仕草は本気で怒っている時にやる仕草。

「で、でもあんな弱小国の皇女よりは――!」

その言葉は僕の視界を狭めてくれた。

ふうん――。

さすがに幼稚な計画を立てるだけある・・・。

「后を殺害しようと食事に盛る毒を私と一緒の時にしか毒を入れなかったのは、計画が明るみになったとき、王暗殺の濡れ衣を后に被せようとでもしたのか? 笑わせてくれる」
「本当に欲に溺れた人間は醜いですね」

この状況で平然と悪態をつける李順に対してちょっとだけ笑った。

「さてこれ以上の言い訳は牢の中でしてもらおうか――」

最後に脅えさせる為に侍女に切りかかるふりをしようと身構えた瞬間

「陛下」

僕を呼ぶ夕鈴の声が聞こえてきて、そんな馬鹿なと切りつけるのを止めた。
剣を持ったまま声がした方向を見ると団扇で半分顔を隠し、老師とともに部屋の入り口で立ち尽くす夕鈴がいて、半分しか見えなかった顔からは半分だけでも十分過ぎるほど、人を見下すような冷たい視線が放たれていて、その視線を送られているのは僕ではないと頭で分かっていても背に汗が伝う。

「先ほど陛下が陛下と一緒の食事の時だけ毒を・・・ と、仰っていましたが・・・ それは本当ですか?」
「残念ながら本当の事のじゃ」

傍に控えている老師が片手で髭を触りながら用意していたような台詞を気を抜きながらなぞる声で言っていて、この2人はこの話を何処から聞いていたんだと再び背に汗が伝った。

剣を構える僕、それを咎める事無く青い顔で見守る李順、この状況にまったく脅えないで部屋に入ってくる夕鈴。そしてそれら全てに脅えているかのように体を震わせたままの元侍女。

「陛下との食事の時にだけ、毒を入れていたのはあなたですか? 陛下が口にされる物に毒を入れていたなんて―――」

僕にも負けないくらいの冷たい声と視線。

「短い間、でしたが、お世話になりました」

ニッコリ笑う笑顔が怖くて僕自身も震える。
李順は別の意味で震えているようだ・・・ が・・・。


 あの後の処理をすべて李順達にまかせて2人で庭に来た。何時もは庭の中をあまり歩かせないようにしているけれど、今日は夕鈴の好き勝手にさせていた。
何時も遠目にしか見ない池の対岸の花畑に行きたいと言われてそこに行き、存分に花畑を堪能した所で庭の木に咲いている花を夕鈴の頭にそっと挿してみる。

「ありがとうございます・・・」

赤い顔の夕鈴は可愛いけれど、あの部屋で初めて見た夕鈴の冷たい視線は二度と見たくないかも・・・。
付かず離れずの距離を保ってする庭の散策。部屋に戻ろうと思い、抱き上げようとするけれど逃げられる。
何時も夕餉の前にする追いかけっこみたいに退路を断つ事が出来ないからなかなか捕まえられない。

「いい加減に私から逃げるのはやめにしないか?」
「嫌ですわ、私が陛下から逃げるだなんて。むしろ、陛下が私から逃げないで下さい」
「私が君からいつ逃げた? 何時も私から逃げているのは君だろ?」
「離宮で何でも答えて頂けると仰られたとき、陛下は私に嘘を付いて逃げましたよね?」
「私が君に嘘を付くとでも・・・?」
「では、私からの質問に答えていただけますか? 私、陛下にお聞きしたい事が何個かありますの」
「昨日答えただろ・・・? まだ質問があるのか・・・?」
「ええ、たっっくさんあります」

散策中のあの笑顔は何処かに行ってしまって変わりにあの時の冷たい視線を浴びせさせられる。

そのまま、誰にも会話が聞こえないような場所に移動した。


 池の上にある四阿の中、僕は椅子に座って、夕鈴は出入り口付近に立っている

「お聞きしたいことが何個か・・・ あります・・・」
夕鈴は先ほど冷たい雰囲気のまま、僕に問いかけてくるから僕もそれに応える

「何が聞きたい、我が后よ」

椅子に座りながらほお杖を付き、笑いの表情を夕鈴に向ける。
夕鈴の機嫌は庭の散策を好きなだけさせたぐらいでは直らなかったみたいだ。

「昔から妃は一人とおっしゃっていたなら、私を選んだ理由は政略結婚の他に何かありますよね?」

あの時の話は最初から聞かれていたか・・・。

「君の国が交通の要所だから」
「陛下のそんな表情の無い、淡々とした話し方、信用できませんわ」

お願いだからさ・・・ そんな人を疑う目でこっちを見るのやめてくれない?

「夕鈴はさ、僕の事信用してないの?」
出来る限りの寂しい表情を作って夕鈴を見てみると、僕の事を疑いの表情見ていた夕鈴の顔が一瞬で赤くなった。これは・・・

「李順さんが『この国は財政難』と仰っていましたけれど、財政難なのに私の国に援助があったのは何故ですか? 李順さんが仰る事は嘘かと思いましたけれど、町の人の様子を見ればそれは嘘ではないと分かります・・・」

李順のやつ・・・ 自分でばらすなと言った「あの件」を不用意とはいえ夕鈴にばらすとは・・・

その事について言うべきかどうしようか悩んでいたらいつの間にか夕鈴が僕の近くに来ていた。
手に持っていた団扇は卓の上置かれていて、何故だろうと考えている隙に夕鈴は僕の首のあたりに抱きついてきて、そのまま膝の上に乗ってきた。
これはどういう事かと目を白黒させていたら、僕の肩に顔を埋めながら

「この体勢でいる間なら何でも答えていただけるんですよね?」

なんて言われると、もう李順から言われた事なんてどうでもよくなる。

「とりあえず、財政難は本当。でも援助が縁談の口実なのは確かだよ。本当はそんな口実なくても迎えてあげたかったけれど、臣下を説得するまで結構時間かかっていてね。そしたら君の国の飢饉でしょ? 援助が一番手っ取り早い方法だったんだ」

そっと頭を撫でて、嫌がられないか試してみるけれど嫌がられない。
これでようやく夕鈴との追いかけっこも終わらせることが出来る。

「本当はそんな口実無くても君を迎えてあげたかったんだけれど、心の準備って必要でしょ? お互い。で、君は何も覚えてない?」

その後そっと耳元で囁かれる夕鈴からの言葉を聞いて、やっとかと嬉しくなった。
それは昔、お互いが子供の頃に連れられて行った近隣諸国の王族が集まった会合でした夕鈴との約束の事。
「その時からです、赤い飴が好きになったの」
陛下の瞳みたいでしたから。なんて言われて本当に嬉しくて嬉しくて抱きしめる手に力が入る
そのままその体勢で昔の話をして、今までの空白の時間を埋めていく。

「嬉しいなー 覚えていてくれたなんて」
「性格が違いすぎて同一人物だと分かるのに時間がかかりました。」
「この性格をいきなり出すと君が混乱すると思ってさ。他の人に出す訳にいかないから2人きりの時にこの性格少しずつ出して僕の事覚えているか試していたんだけれど、覚えてないみたいだったからさー。本気で傷ついたよー。」
「・・・ごめんなさい。でも早くその事を言わなかった陛下も悪いです」

ちょっと拗ねるように頬を膨らませる表情も可愛い。やっぱり夕鈴がいれば他の妃なんて居なくてもよさそうだ。長年待っていた甲斐があった。その後、隠しておけと言われた財政難の件を何故教えたのかと李順から怒られる事になったけれど、そんな事今はどうでもいい。いつかは知られるはずの事だったから。


―終わり―



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赤い飴 7

【二次元創作SS】【黎翔×夕鈴】【本物夫婦】

if設定:夕鈴は何処かの国の皇女です。

-*-*-*-*-*

野猪に襲われて体の震えが止まらなくなった。

「帰ろう。体が震えている」

輿入れの時、花嫁衣裳に着替えをするために使った離宮が狩の場所から近い所にあるから今日はこのまま離宮に泊まると伝えられた。
太陽が傾いた頃に離宮に到着して少し乱暴に陛下に湯殿まで連れてこられて一人で湯浴みをしていると、ようやく体の震えがとまった。湯からあがると離宮の人が待機していて湯上りの香油を塗ってもらった。
着物を着た所で離宮の人は何時もの侍女さんと交代。そのあと部屋に戻る。
部屋の長椅子の上には陛下が座っていて、私に気が付かないで書簡に目を通していた。
下町で助けて貰った時に気が付いたけど、よくみるとこの人って漆黒の黒い髪に赤い飴みたいな目と整った顔つき、綺麗よね・・・。なんて、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ思ってしまって心臓が跳ねた。


「―――どうしたの?」
「・・・なんでもありません」

貴方に見とれていました。なんて口が裂けても言えるものですか!

「そう? 何か言いたそうだったけど・・・?」
「では・・・ お聞きしたいことが何個か・・・ あります・・・」
「いいよ答えてあげる。ただし・・・ この体勢でなら・・・ ね」


陛下は立ち上がって私を軽々と抱き上げ同じ長椅子に座った。私は椅子に座る陛下の膝の上。
こ、こ、この体勢はちょっと辛い! 顔が近い! 「放して下さい!」と言ったら

「この体勢でいる間なら何でも答えてあげる・・・」

なんて言われて聞きたい事があるこっちにしてみれば大人しくこの体勢でいるしか選択肢はなくなる。恥ずかしさに耐えながらも一回深呼吸して話を切り出す。

「まず・・・ 一つ目ですけれど、どうして私があなたの正妃に選ばれたのですか?」
「・・・またそれ?」
「それに今と謁見の間の時と大分雰囲気が違うように思いますが・・・?」
「やっぱり気が付いた?」
「気が付かない方がおかしいです!!」
「まいったなー、これ李順に『ばれないように』って言われているんだけれどねー」

陛下、陛下の手が私に腰にそえられているのと、もう片方の手が私の背中とか頭とか、色々な所を撫でているのは気のせいですか!?

「さ、わ、ら、ないで下さいっっーー!!!」
「だからこの体勢でいる間なら何でも答えてあげるって・・・」
「頭とかを撫でるのは条件に入っていません!!」
「・・・昼間君を助けたんだからこれくらいのご褒美頂戴?」
「いいから早く答えてくださいっっ!」
「ま、いっか。えーとなんだっけ、君を正妃に選んだ理由・・・ だっけか―――?」

その後に「・・・んだね」何て聞こえた気がしたけれど、陛下の手が私の頬から首にかけて移動してきて、ぞっとする感触に耐えている最中だったからそれは耳に届かなかった。

「前にも言った通り、君の国が交通の要所で他国に攻め入られるとこの国が危ないから。飢饉の援助は縁談の口実」

目をそらしながら淡々と紡がれる言葉の裏には何かがある気がして「本当に本当ですか?」と言うけれど「本当」と言い切られる。

「では・・・ 今と謁見の間の時と大分雰囲気が違うのは何故ですか?」

陛下は本気で悲しそうな表情を一瞬する

「謁見の間の僕は演技。本来はこっちが素、この国は内政の建て直し中で強い王様が必要だから臣下の前ではずっとこれ。あの時は君の侍女が近くに控えていたでしょ?」

そんな表情の無いような淡々とした話し方、信用できません!

「では、他に妃が居ないのは?」
「・・・またそれ?」
「その裏表が、他の臣下にばれないように、ですか?」
「・・・うんまあそういう事に君は鋭いんだね。よくわかったよ」
「どういう事ですか!?」

私の後頭部にそっと手をあてて、陛下の肩に顔を引き寄せられた。私の顔が陛下の肩に埋もれるような体勢にさせられた。

近い! 心臓が持たないからこの体勢は勘弁して下さい!
顔をあげたくてもがいてみるけれど、私の力では陛下には勝てない。

「そろそろお腹空かない? 夕餉にしようよ」


近くにあった鈴を鳴らすと女官さんか侍女さんが来る。この体勢を見られる、そう思うと緊張で体が強張る。陛下の肩に私が顔を埋めている体勢は、夕餉の準備が終わって食事をする部屋に抱かれたまま移動してその部屋から陛下が人払いするまで続いた。

陛下が卓の椅子に座る瞬間、僅かな隙をついて拘束から逃げた。

「まあ・・・ いいけど」

また一瞬本気で悲しそうな表情をする陛下をみて胸がチクリと痛む。
卓で陛下と向かい合わせに座ると2人きりの夕餉が始まった。


 隣の部屋から夕鈴を抱いて移動して夕餉が用意されている部屋に行き、座ると一瞬の隙をつかれて逃げられた。相変わらず、すばしっこい兎だ。
 
椅子に座りながら眺め、今日もか・・・ と、内心ため息をつく
そうしていたら、想定していなかった事を言われた。

「私が淹れたのでよければ・・・ ですが、お茶を飲みませんか?」
「君、自ら淹れてくれるの? それは是非飲みたいな」
「確か先ほどの部屋にお茶の準備がしてありましたので、持ってきます・・・」

夕鈴は隣の部屋に準備されていたお茶道具一式を持ってくると器用に淹れはじめる。
どうぞと差し出されたお茶を一口飲むとなんだかほっとできた。

「お茶、淹れられるんだ」
「私の国の王宮には必要最低限しか人が居ないんです。だから何でも自分でやりました」

掃除だってした事もありましたし、料理だってしました。皇女がそんな事ってよく回りから言われましたけれど、節約の為ですから。と笑う夕鈴は何故か今まで以上に可愛く見えた。
それから飢饉の時にした畑仕事の話になって、自分で植えた作物が育っていく過程を見て楽しかった事や、畑にするために潰してしまった庭の話を聞いていたらさっき潤したはずなのにまた自分の喉が渇いている事に気が付き、渇きを潤すために淹れてもらったお茶をまた一口飲んだ
「うん、君が淹れたお茶は美味しい」と夕鈴に対して笑うとさっきまで笑っていた表情が一瞬で赤くなるのを見る事ができた。

淹れてもらったお茶を飲んで喉を潤してから、いつものように用意された料理全てに一口ずつ口を付けてみると、案の定。
一瞬で機嫌が悪くなって、ため息を付いてから人払いしていた人間を鈴で呼び、全て片付けろと支持を出す。夕鈴が吃驚した表情でこちらを見ていたけれど気にしない振りをしておいた。

「これから后と2人で先に王宮に戻る、后の準備をしろ。他の者には私から伝えておく」

料理が全て片付けられたのを見届けてから部屋を出て浩大を呼んだ

「浩大、見つかったか?」
「ばっちり“俺は”見たよ。でも証拠の確保は無理だった。」
「昼間の野猪は?」
「そっちは仲間が捕獲済み」
「とりあえず王宮に戻る、戻れ」
「何処に? お后ちゃんの警護? それとも王宮?」
「どっちにでも捉えるがいい。捉え違えたら・・・ 分かるな?」
「へいへい、警護に戻りますヨ」

王宮から連れてきた人間に一足先に戻る為の準備をさせて、準備ができると夕鈴を迎えに行った。
部屋には表情が硬い夕鈴がいて、そのまま特に声を掛けず抱きかかえると馬に乗り王宮に向かって出発する。ここから王宮まではそう遠くない。後ろには同じく馬に乗った浩大がついてくる

「あの、陛下・・・ お茶に何か問題でも?」

王宮に戻る途中、そう問いかけられたけれど今は一刻も早く王宮に戻るのが先決だと思って

「・・・馬に揺られながら話すと舌を噛むかもしれない。その話はまた後で・・・」

夕鈴の耳元でそう囁き、頷くのを確認してから馬の速度を速める。


 狩をしていた森の近くの離宮から王宮に到着したのは夜も更けた頃だった。王宮について吃驚した兵士や女官に迎えられたけれど、そんな事をいちいち気にしている暇はない。

夕鈴を彼女の部屋へ連れて行き、不在の間に何か仕掛けられていないか確認するけれど、特に何も異常は見つからない。これで予想していた事が予想では無くなってしまい、舌打ちをする。
行われている事の陰湿さにイライラする。王宮はこういう場所だという事は昔から知っていたけれど、本気でこういう場所が嫌になってきた。

何時も夕鈴と2人の夕餉の時、念のために確認すると毒が入っている。毒見をすり抜けて毒が料理に入っていると言う事は、料理が出される直前に入れられているという意味で、夕鈴の部屋には限られた人物しか入れないようにしていたはず。
始めは僕の事を嫌った夕鈴が毒を入れているのかとも思ったけれど、さっき食事の準備が終わるまで僕の膝の上から夕鈴を放さなかった時も入っていた。

一回だけ毒が入っていなかったあの時は突発的に僕と一緒の食事になったはずだから、毒の準備が間に合わなかったと考えるのが自然。
夕鈴の支持で誰かが料理に毒を入れられている可能性もあるけれど、夕鈴にこの国に王の暗殺を共謀するくらいの信頼関係を築けるほど仲の良い人間がこの短期間で出来たとは考えにくい。
それに長年夕鈴に使えていた侍女は自国に置いてきたと聞いた。その侍女と一緒なら夕鈴が支持を出して入れている可能性はゼロではないが、離宮での夕餉にも毒が混入されていて夕鈴自ら淹れたお茶にはそれが入っていなかったからこれで夕鈴自身はほぼ白

念のために浩大に聞けばあの人物がいれていたと言われ、証拠は無いが早々に動く事にした。何時まで経ってもなかなか成功しない計画に痺れを切らす時期だ。

自室に戻る途中の回廊、歩きながら考えを廻らせれば廻らせるほど、機嫌が悪くなる。その鬱憤は一足遅れて王宮に付いた李順に向けられ、出した指示に証拠も無いのに本気ですかと問いかけられる。
当たり前だと返し、証拠なんて捕らえた後に作れと言うと李順はため息を付きつつ、こめかみを抑えながら準備をしに行ったのを確認して自室に戻った。




→ 赤い飴 8



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