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惑わす光 -後編-



【二次現創作SS】【バイト妃原作寄り】【黎翔×夕鈴】

-*-*-*-*-*


僕がその小屋の見える場所まで辿り着いたのは、日も暮れかかる頃だった。
小屋の中に囚われていた夕鈴を見つけた浩大と合流し、中の様子を覗くとそれは夕鈴の髪が賊に切られたまさにその瞬間で何も考えずに小屋に一人で踏み込んだ。


その後、賊は・・・ 夕鈴の居ない所で処分した。


途中合流した浩大にその場を任せ夕鈴の元に行く。そこには遅れて到着した兵がいて、兵とは言え夕鈴の側に他の男がいる。それだけで僕の中が黒くなっていく。

深呼吸をしてその感情をなんとか押さえつけ、声を掛けると夕鈴が恐る恐るこちらを向いた。
脅えてはいるものの澄んだ瞳に見つめられてしまい、血で染まった僕が夕鈴に触れてもいいのか迷ってしまう。
けれど夕鈴が、そして僕も少し震えていたからそれらを止めさせる目的でそっと抱きしめると兵は音も無く何処かへ下がっていった。

「ごめん、守れなくてごめん」
「そんな事言わないで下さい。私は大丈夫ですから」

どうして攫われたのに、危ない目にあった原因は僕なのに怒ってくれない?
今にも泣き出しそうな夕鈴の声を聞いてしまうと自然と抱きしめる腕に力が入る。
賊に切られてしまった髪は長さは何時もと違うけれど夕日に照らされる髪は何時もどおりの輝きを放っていて、それを見てしまうとやるせない気持ちがこみ上げてきた。
出来るだけ優しく夕鈴の頭を撫でていると夕鈴から声が聞こえてきた。

「あの、あの、髪はまた直ぐに伸びますからっ!」
さっきも聞いたその言葉と今にも泣き出しそうな声が僕の心に突き刺さってくる。

「どこが大丈夫なの? そんな泣きそうな声で。大丈夫だなんて――思えない」
少し怒ったような僕の声が合図だったのか今まで気丈に振舞っていた夕鈴からやっと涙が零れ落ちてきた。それを見て夕鈴を再度抱きしめ、用意されていた馬車で王宮に向けて出発する。
静かに涙を流し、僕にしがみ付きながら体を震わせている夕鈴を落ち着かせようとなるべくゆっくりとした手付きで頭を撫でる。


――もう大丈夫だから。

でも今は泣きたいだけ泣いて。ずっと傍にいるから。

君にこんな怖い思いはもうさせない。約束。

君の全てが愛しい


頬や手に、額や髪に軽い口付けを送りながら零れ落ちる涙を拭き、思う事を言葉にしてみるけれど、それらは慰めにすらならないのは分かっている。
やがて腕の中で泣きつかれてしまったのか、緊張から開放されて安心したのか眠ってしまった夕鈴になるべく馬車の振動が伝わらないように抱きしめていると馬車は何時の間にか王宮に到着していた。

それから後宮の立ち入り禁止区域で老師に不自然な長さになってしまった夕鈴の髪を揃えさせる
腰まであったはずの髪は肩甲骨のあたりまでの長さになってしまった。
夕鈴を湯に入れてから二人きりで夕餉を摂るとお茶を飲みながら抱きしめてる。
するとようやく夕鈴の震えが止まった。
それを確認すると寝台に寝かせ眠りに落ちるまで手を握る。
「僕はずっと君の傍に居るよ。安心して眠って――?」

そう言ったけれど一番安心できないのはこの僕自身だった。寝台に広く広がるはずの髪が何時もより少なく、今日の事は夢ではない事を実感した。

それから数日間は出来る限り夕鈴と一緒の時間を過ごした。
日中は天気が良いからなど何かと理由をつけ外に連れ出し、庭の花や新しい簪を夕鈴の髪に挿しながら僕自身が出せる精一杯の笑顔を送った。
夜は夕鈴が眠りに落ちるまで頭を撫でながら手を握り、眠ったのを確認すると自室には戻らずに僕は近くにある長椅子で眠る
部屋に一人でいると不安がり、外へは僕と一緒ではないと出ないと報告がきていたけれど時間の経過とともに自分から庭の散策に出かけるようになり何時もの笑顔が戻ってきたとの報告がくる。
それならばと久しぶりに政務室に来るように伝えた日、政務室に顔を出した夕鈴の髪は纏め上げられその髪には僕が先日送った簪が輝いていた。
優雅に笑う夕鈴の偽りの笑顔を見たくなくて早々に仕事を切り上げ庭に連れ出す

「ねえ夕鈴? そんな姿で誰を惑わしに来たの?」
「そ、そんな陛下を惑わすだなんて!」
僕の膝の上にいる時にしかしないその表情は、本来の夕鈴の表情でほっとした。
無言で夕鈴を飾る簪を取ると纏められていた髪が夕鈴の背中に落ちる
「もう・・・せっかく侍女さんが結って下さいましたのに」
解かれた髪をそっと押さえながら頬を膨らませる夕鈴の髪は太陽の光で輝き、その光は僕の心を惑わせる。
何時ものように毛先を指でくるくると回して遊びながら思いを伝えてみた。

「もう君はずっと後宮にいて?」
「はい・・・」

その是の言葉をどう捉えて返事をしたのかは分からないけれど、君は言ったよね「はい」って。
僕の胸にしなだれかかっていた夕鈴の顎を掴み、少し強引に上を向けさせて唇を奪うと予想通りの抗議の言葉が出てくるけれどそれは僕の耳には届かない
もう二度と僕の傍から逃げられないように、連れ去られないようにするから髪が元通りの長さになってもずっと傍にいてほしいと思いを込めてまた口付けを送った。

-*-*-*-*-*


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惑わす光 -前編-



【二次現創作SS】【バイト妃原作寄り】【黎翔×夕鈴】
・血の表現がありますので苦手な方はバックしてください。

-*-*-*-*-*

政務室、机を叩くコツコツという音だけが響く室内には机に座る青年
その青年の傍にいる髪を後ろに結った青年は座っている青年に冷たい視線で睨まれ動けないのか、動じていないのかは分からないが室内には机に座る青年が指で小刻みに机をたたく音だけが響いていた。

「私がそれを容認するとでも――?」
「されないでしょうね」
「なら何故聞く? なぜそれを実行しようとする?」
「それも彼女の仕事内容のうちの一つですから」

それはそうだと机に座る青年は心の中で思うが彼女にそのような危ない事はさせたくなかった。

「黒幕が分からない以上はどうする事もできません。これが一番早い方法です」
「・・・いくらお前の考えでもその案は却下だ。他の方法を考えろ」


冷たくそう言い放ち、政務室を出て行く青年の向かう場所はただひとつ。

「人選を失敗しましたかね」
髪を纏めた青年のため息は冷たい室内の空気の中に溶けていった。


 今かなり機嫌が悪いのが自分でも分かる。夕鈴を囮に? それが夕鈴の仕事? 確かに偽の妃を雇うときはそういう内容で契約するとは聞いていた。
契約が何だ。借金が何だ。今些細な事でも何かあったら自分を抑えられない。だからこの黒い自分を何とかしてくれる人の所へ足早に向かった。

「陛下、お帰りなさいませ」
何時もの部屋で何時ものように優雅なお辞儀をして僕に礼を取る夕鈴
そこにいるのは演技をしている偽の夕鈴だけれど、それでも顔をみられただけで僕の気持ちが落ち着いていく

「我が妃よ、今戻った」

そっと夕鈴に抱きつくと、体を強張らせながら小さく「ひっ」と言うのがおかしくて思わず心の中で笑った。
人払いをしていないから騒いでは駄目だと色々と我慢しているのだろう。
心の中で小さく微笑みながら、そっと合図を出すと侍女は音もなく部屋から出て行くけれど夕鈴がそれに気が付く様子はない。
それだけ僕が夕鈴に触れる事は夕鈴にとって嫌な事なのかと心の中で少し落胆しながらそっと声を掛けた。
「夕鈴、もう侍女は居ないよ?」
「えっ、あっ、えっと、その・・・」
顔を赤くしながらそのまま大人しく僕に抱かれたままの状態でいられる夕鈴がよく分からない。逃げたければ逃げればいいのに。勿論逃がすつもりはないけれど。腕の中にいるままの夕鈴をもう一度だけ強く抱きしめてから何時ものように抱き上げ夕鈴を膝の上に乗せ椅子に座った。

「今日は一日何をしていたの?」
「ずっと部屋に居ましたよ。そうして欲しいと仰っていたのは陛下じゃないですか・・・」

今日は浩大が地方の調査に行っているから庭の散策や掃除をやめて部屋に居るように。嫌な予感がするし政務室に行く途中の回廊で襲われるかもしれないから部屋にずっと居るようにと口うるさく言っていたのは僕自身だ。
「そうだったね。約束守ってくれたの? ありがとう」
そっとこめかみの部分にキスを贈ると夕鈴の顔が一瞬で赤くなった。
それを見て夕鈴の髪を撫でながらもう一度キスを贈ろうとすれば抗議の声が聞こえてくる
「陛下近いです! 近いですっ!」
「可愛い事する君がいけない」
夕鈴の髪の毛を少しすくって髪に口付けをしてから毛先を指に絡めてクルクル回して遊ぶ
こうして触る夕鈴の髪が日を追うごとに手触りが良くなっている。
おそらく僕が夕鈴の髪を頻繁に触っているから侍女が気を利かせて念入りに手入れをしているのだろう。
他の場所に口付けをすると夕鈴は泣いたり怒ったりして僕から逃げてしまうけれど、髪への口付けだけは僕から逃げない。太陽の光で輝く髪の色、触り心地の良さ、全てが愛しくてそこにそっとまた口付けをした。
するとまたさらに顔を赤くする夕鈴が可愛くて唇に口付けをしたくなるけれどその思いは必死にかみ殺す
ただ、その髪の触り心地が良くなる度に夕鈴が王宮に来てから経った時間の長さを思い知らされる。
「あの・・・陛下?」
「ん? なに?」
「その・・・夕餉の前に少し庭に出たいのですが・・・よろしいですか?」
「駄目!」
思わず両方の二の腕を掴み強く言う。
「は・・・ はい あの、陛下少し・・・ 痛い・・・です・・・」
「ご、ごめん」
掴んでいた部分をそっと撫でながら再度呟く
「今日の君は僕だけの物・・・ ね?」
李順が夕鈴を囮にするとか物騒な事を言っていた。同時に沸いてくる不安な気持ち、嫌な予感。
何も言わずに僕の胸にしなだれかかるその仕草を是の返事と受け取り、またそっと夕鈴の髪を撫でる。
夕餉までそのままゆっくりとした静かな時間が流れて行った。



夕鈴とのそんなやり取りがあった数刻後、庭にいる侵入者と僕は剣を交えていた。
今日夕鈴の部屋に入った時から感じていた気配をそこから遠ざけようと庭に出て警備兵はいったい何をやっているのかとため息を付きながら掃除をしていた。

黒衣を纏う刺客達が切りかかってくる。剣をふりながら裏を考えた。
刺客達は僕に対して積極的な攻撃をしてこない。防御しかしていない。
「ぐはぁ!!」
「うわぁぁ!!」
造作も無く土を付けると直ぐに動かなくなる。何人倒しても相変わらず“攻撃”をしてこない
どんなに考えても、嫌な方向にしか考えが向かない。
騒ぎをききつけた警備兵がようやく到着したと思ったとき月明かりに輝くあの髪が僅かに視界に入ってきた

大判の布に包み、まるで荷物を肩に抱えるようにそれを運んでいる賊がいた。
あわててそちらの方向に走ろうとするけれど、その場にいた刺客が僕の邪魔をする。

「じゃまだ!」
目の前に立ちはだかっていた最後の一人を切り捨てて夕鈴を助けようと走る

「夕鈴!」
「陛下!?」

懐に隠していた小刀を投げつけ動きを封じようとしたけれど、夕鈴を運んでいる賊を守るように走っていた賊の仲間がそれを庇い目標からは逃げられる。
思わず舌打ちをして全速力で走るけれどまた他の刺客が僕の前に立ちはだかる。
それを倒す僅かな合間に夕鈴を抱えた賊は王宮の壁をいとも容易く飛び越えていった。

「陛下!」

最後に聞こえた夕鈴の悲鳴のような僕を呼ぶ声だけが耳に何時までも残っていた。



 何時までも戻ってこない陛下を後宮まで迎えに行くと、いつの間にか庭園では騒ぎが起こっていた。
警備兵が倒れている黒衣の者達を一人一人連行していく中、陛下は剣を握りずっと一箇所に立ち尽くしながら壁の方向を見ている。
警備兵に事情を聞き、頭をかかえながら陛下に声を掛けると冷たい視線で射抜かれ、喉に陛下の剣を当てられる。
赤く染まったその剣は不気味に月明かりを反射していた。

「李順・・・ 許可なくあの件実行したのか・・・?」
「まさか。しかし相手にこんなに早く動かれるとは思いませんでした」

いくら戻しても同じ複数の相手から何度も何度も届けられた妃推挙の件
同時に陛下が感じていた不穏な動き。そろそろ潮時かと手を打とうと案を提案したら却下された
そして次の案を考えている最中にこの騒ぎ。

「夕鈴に何かあったら・・・ 分かるな・・・?」
冷たい視線のまま、持っていた小刀で胸のあたりを刺される。唯一の救いは陛下が刺してきた小刀は鞘に収められたままだった事
当たった所からの痛みに息をのむけれど、無かった事にして地面に落ちたその小刀を拾い陛下を追いかける。

「探せ、遅くても明日の昼までに何としてでも!」
「御意」

-*-*-*-*-*



-後編-


秋の並木道



※ごちゃ混ぜパラレルなので何でもいいよという方のみお進みください



【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【捏造あり】
・現パロ含みます。なんでもいいよという方のみお進みください

*-*-*-*-*-


 白陽国の王都の端にある白華園、広い園内は普段は一般の人たちが集う憩いの場所だが、王宮の大きな宴の会場となる場合もある。

その白華園でこの国の王と妃の隠しおおせぬ深い愛が物語となり、国中の貴族の間で流行したのは大分前のこと
その妃がこの国の正妃となった今でも王の変わらぬ寵愛を受けていた。

「ねー 夕鈴、今度白華園で貴族の集まりがあってね、それに李順が二人で行って来いって言うんだー」
「白華園ですか・・・? 私あそこでいい思い出があまり無いです・・・」
「そうかもしれないけれど、まだ君以外に妃をなんて言う輩がいるからね。寵愛を回りに見せ付けておくに越した事はないよ」
「・・・昔陛下はあそこで手っ取り早いからって、その場に居る人たちの前で口付けしましたよね? その出来事を題材に書かれた物語を紅珠に読まされた時、どんなに恥ずかしかったか・・・」
「そういえばそんな事もあったねー。今回はそんな事にならないと思うから大丈夫だと思うよ?」


 数日後、白華園で催される貴族の集まりに陛下と二人で出席した。
白華園に到着すると、この集まりは大分前から始まっていたようで広大な敷地を歩いて疲れたのかあちこちで休憩している貴族達がいて、私達を見かけると慌てて礼を取る姿が視線の端に見えてきた。
私の事を陛下はいつものように腕に抱きながら白華園の中を歩いている。
本当は馬に騎乗しながら登場したかったらしいけれど、それは恥ずかしすぎると抗議をしたら妥協と言われてこんな事になった。

「陛下・・・ おろしてください・・・・」
「僕が君を抱いて歩くのは何時もの事でしょ?」
「そうですが、恥ずかしいものは恥ずかしいんです」
「じゃあまた手っ取り早い事する? 一応縁談よけだし?」
「しませんっっ!」

周りの貴族達の事をまるで居ないかのような扱いをしつつ、内緒話を私としながら陛下はずんずん進む。
私達の為だけに用意されたという休憩する場所でお茶を飲むけれど、陛下は膝の上から私を降ろしてくれず、必死になって赤くなる顔を団扇で隠していた。

「なんで私はずっと陛下の膝の上にいるのでしょうか?」
「ん? 縁談よけ?」
「自分の足で庭を歩きたいのですが・・・?」
「君から口付けしてくれたらいいよ?」
「いやですっっ!」
「君は僕と口付けするのは嫌?」
「そういう事ではありませんっ!」

陛下と何時もの押し問答をして今度は船に乗り、舟遊びをする事になった。
舟遊びは他の貴族の視線があまり届かないから少しだけほっとしていると、小犬になった陛下にクスクスと笑われてしまった。

「前にここで口付けしたの、そんなに嫌だった?」
臨時花嫁時代に瑠霞姫が主催したピクニックがここで開催されたとき、縁談よけと言って陛下に口付けをされた。
「あの時は動揺しましたけれど、今ならきっと大丈夫です!」
「そうだね、口付けはたいした事じゃないんでしょ?」
顎を掴まれ、何故か送られる口付けに再び動揺してしまい、引く事の無い顔の赤さがさらに色付くのを自分で実感してしまって、いたたまれなくなった。
船の上で暴れるのは危ないからと再び陛下の膝の上に乗せられ、止めてくださいと抗議をしている間に舟遊びは何時の間にか終わってしまっていた。船は岸に到着している。
「気をつけて?」
船から降りるとき陛下に足元を注意するように言われたのに、自分の衣装の長い裾を踏んでしまって足元を取られてバランスを崩してしまい、陛下に受け止められた。
陛下に受け止められるのは嬉しいけれど、私は少し低い位置に居た陛下に向かって落ちていってしまい、顔から陛下に向かって落ちて行った私は、結果的に陛下の唇を奪ってしまっていた。

「なっ、なっ、なっ」
一瞬だけニヤリとした陛下に「君から貰う口付けはどの菓子よりも甘い」なんて耳元で囁かれて再度陛下から口付けされ、状況が理解できないでいると

「やはり君自身の足で歩かせると危ないな・・・」

なんて言われてその後も園内の散策中ずっと陛下に抱かれたまま、帰る時は早く帰りたいと陛下が言って二人で馬に乗って王宮に帰ってきた。

こうして私には白華園でのあまりよくない思い出が増えた一日が終わった。

後日、その時の様子を紅珠が物語にして私に届けにきたけれど、熱く語る紅珠には勝てずまた国中の貴族にその話が広まる事になる・・・。

*・*・*・*

ある休日、私は宣言どおり図書館に来ていた。
気になった棚全部に一人の作家の本が並べられていて、何かに引き寄せられるように普段は読むことの無い恋愛小説を何となく手に取って読む。
その作者は大分古い時代を生きていた人のようで、まるで自分の目で見ていたかのように書かれる物語はとある国の王と妃の物語が主。
並んだ本の内容は記憶を無くした王様と妃の出会いの話やとある庭園で行われた集まりでの物語は何種類かあって、その内の2種類は王が妃に人前で口付けをして愛を確認する話と、今度は逆に后が王に口付けを送り愛を周りに見せ付けるという話があって、普段読まないジャンルのその話はとても新鮮に感じて面白かった。

歴史の資料を調べても一国の王と后の恋愛の話はあまり出てこないから、この物語は普段知る事の出来ない世界が分かってとても興味深く、時間を忘れて読んでいるとふいに隣の席に誰かが座る音がした。

その知っている雰囲気にちょっとだけ頬を膨らませながら視線を送ると、その先には寂しそうな恋人の顔。

夕鈴、帰ろう?

口の動きだけで何を言いたいのか分かってしまう自分に内心あきれつつ、読んでいた本を指定の場所に戻してから無言で図書館を出る。

図書館の銀杏並木を歩きながら後ろを振り向き、恋人に対して少しだけ冷たい声で言ってみた。
「部長、お仕事じゃなかったんですか?」
「もう夕方だよ? 帰ろう?」

そう指摘されて気が付いたけれど、いつの間にか太陽が大分色づく時間になっている。これだけ赤い色をした夕日だときっと明日はいい天気になる。
夕日を背にそっと私に差し出される手に対し、私のする行動は一つだけ。
手を繋ぎ、家へ向かって二人で家路を急ぐ。

「今日はどんな本を読んでいたの?」
「ある国の王様と后の物語です。文字だけなのに二人のお互いを思いあう深い愛が伝わってくるような素敵なお話でした」

それから詳細に読んだ物語のあらすじを説明した。妃に口付けをして颯爽とその場を後にした国王
そのお返しと后から王に口付けをした話。
私の知らない貴族の世界が見られたようで楽しかったですと言えば、物語に出てきた二人が羨ましい?なんて問いかけられる。

私が素直に思った事を言えば部長は本当に嬉しい時にしかしない笑顔をして私を抱き寄せてくる。

機嫌直してくれた?
腕の中に閉じ込められながら、人前でそんな事をする部長は嫌ですと返答してみた。
すると本気で残念そうな顔をする部長。表情がクルクル変わって面白い。

「部長、来週のご予定は?」
「まだ分からないけれど、週末は無理にでも空けるつもり」
「期待しないで待っていますね?」
「夕鈴の意地悪・・・」

普段から私は部長に翻弄されているから少しだけ意地悪。
秋の週末、舞い落ちる落ち葉が次の季節の訪れをそっと告げていた。

*-*-*-*-*-


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