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いろいろ


前回の話はこちらから

【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】
・二人は同じ会社の同僚(黎翔さん部長、夕鈴平社員)で同棲しています
・風船から数週間後のバレンタインデーのお返し、ホワイトデーのお話


-*-*-*-*-*


 3月のある土曜日、休日出勤を終えて帰ってくると夕鈴が何時もと違う事に気が付いた。

「夕鈴髪切った?」
「少しだけですけど切りました。というかよく気が付きましたね」

朝と今ではほんの少しだけ髪の量が少なくなって前髪も短くなっていた。
普段前髪だけなら自分で切ってしまう見たいだけれど、そろそろ龍台頭。
いい機会だからと今回は美容院に足を運んだようだ。

「部長もそろそろ散髪に行かれてみてはいかがですか?」
「そうだね、時間を見つけて行ってくるよ」

次の日、仕事の進み具合を確認しに理事長室に現れた李順を捕まえ髪を切るように頼んだ。

「・・・またですか?」
「お前の方が腕がいいし知らない人間に刃物を持って後ろに立たれたくない」
「この書類の山、今日中に片づけて下さいよ?それが条件です!」

正月前から伸ばしていた髪を春に切る風習がこの国にはある。それを龍台頭(ロン・タイ・トウ)という。
自分の髪を龍に見立て、それを切ることにより更なる成功を願掛けするいわゆる縁起を担ぐ行事だ。
李順に髪を切ってもらいながら書類を見ていると浩大が何かを手にしながらやってきた。

「あれ、散髪中~?」
「浩大か。あの件はどうなった?」
「というか理事長さんいい加減に美容院とか行かねーノ?」
「浩大もっと言ってやって下さい」
「そんな暇あったら夕鈴と過ごす」
「夕鈴? ああ、理事長さんの大事な兎ちゃんね。懐かしいなー。この後デートでも行くノ?」
「違う、龍台頭だ」
「理事長さんって季節のイベント気にする人でしたっけ? 兎ちゃん効果?」
「うるさい」
「そうだ李順さん、後で俺のも切ってよ」
「浩大こそ散髪屋に行ったらどうです?」
「知らない人に刃物持って後ろに立たれるのが嫌だからネ。李順さんの方が腕いいし」
「・・・浩大もですか・・・まったく・・・」

僕の散髪が終わると浩大の散髪が始まる。
散髪をしながら報告を聞きつつ打ち合わせをしていると浩大の散髪はあっという間に終わり、それが終わると持ってきた包みを渡された。

「部長さんのフロア女子社員へホワイトデーのお返し。来週だよ? 用意してないでしょ?」

その言葉を聞き、日付を確認してサッと血の気が引いていった。
夕鈴へ何をプレゼントするか考えているうちに思ったより時間が経過してしまっていて、今日を逃せば買いに行く暇はない。
時計を見ると午後4時今から行けば間に合う。
そう思って立ち上がった瞬間、鋏を持った李順に睨まれた。

「理事長ー。その書類を今日中にとお願い申し上げたはずですが?」

何もない空間を鋏でチョキチョキと切りながら怒りのオーラを背に纏う李順からは、書類が片付くまで逃げる事は出来なかった。


 あれから高速で大量の書類を片づけ、何とかデパートに足を運ぶ。
もうすぐ閉店時間だというのに休日という事もあり、少々混み合っている。
デパートはホワイトデー商戦真っ最中で商品もそういった物が揃っていた。
バレンタイン以来、それと無く夕鈴は何が欲しいのか観察してみたけれど今日まで答えは出なかった。
ふと、カップルが宝石店でアクセサリーを選んでいる光景が目に入る。
夕鈴はこういった物は好まない。マシュマロとクッキー以外の菓子がいいだろう。

地下はホワイトデー用に用意された色々なお菓子が売り場に花を添えていた。
この中で夕鈴が一番喜びそうな物は何かと考えながら歩くけれどいいものは見つからない。
結局フロアを何周かして、小さな飴の詰め合わせともう一つお菓子を購入し帰路につく事にした。

帰る途中ある店の店頭で面白い物を見つけ足を止め、店頭に出ていた説明を軽く読みさらに詳しく調べる。
思わず口角を上げてしまうようなその由来に納得して、数種類ある商品を一つ選び予約しておいた。

そしてホワイトデー当日、この日は出張で朝は夕鈴の顔を見ることなく家を出た。
出張先でメールをチェックしているとその中に夕鈴から贈った飴の写真付きで一言だけ「ありがとうございます」と書かれたメールを見つけ、思わず笑う。
昨日のうちに夕鈴のディスクに名前を書かずに小さな飴の詰め合わせを置いて置いたけれど、誰のかすぐに分かってくれたようで少し気分が軽くなる。
それから大急ぎで出張先から戻り、閉店ギリギリで予約していたお菓子を受け取り、もう一軒立ち寄って家に戻った。

マンションに付くと部屋のインターフォンを鳴らす。
鍵を持っているけれどわざわざ開けてもらうのは、扉を開けた時に一瞬だけ見える夕鈴の笑顔が見たいから。
相変わらず僕に対しては一線を敷いたような態度しか取らない夕鈴だけれど、その時だけは笑顔を向けてくれる。
扉が開いた瞬間、手に持っていた花束で夕鈴の視界を塞ぐようにして差し出し、少々驚かせてみた。

「ただいま、夕鈴」
「お帰りなさい。どうしたんですか、この花束」
「ホワイトデーのお返し、受け取って?」

そう言って予約して買ったアップルパイも差し出した。

「ありがとうございます」ピンクを基調として作られたチューリップの花束で赤い顔を半分隠しながらお礼を言われたけれど、欲を言えば顔を隠さないでほしかった。

夕飯が終わり、2人でアップルパイを食べお茶を飲みながらゆっくり話をする。

「そういえば部長、どうしてお返しがアップルパイなのでしょうか?」
「3月14日を鏡文字にすると『PIE』になるから今日はパイの日なんだって。だからだよ」
「あ、本当ですね!」

そう言いながら笑う夕鈴はとても無邪気に見えて、もう一つ込めた理由には気が付かないような気がしてきた。
・・・・それでいい。


深夜、夕鈴が完全に寝静まっているのを確認してからこっそり夕鈴の部屋に入る。
気持ちよさそうな寝息を立てて寝る枕元に飴と一緒に買ってあったマカロンを置き、髪を撫でた。
ふと唇が目に入りいつから夕鈴とキスをしていないのか考えたけれど、分からない。
今まで離れていた時間がいかに長かったか思い知らされる。

どうして僕がてピンクと赤のチューリップの花束を買ってきたのか。
なぜ、数種類あったパイの中からわざわざアップルパイを予約してまで買ってきたのか。
最後のお返しがなぜマカロンなのか理由に気が付くだろうか?
気が付かなくていい。

僕から離れて行かないでほしいと願いながら眠る夕鈴のおでこにキスを送った。


-*-*-*-*-*


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雪見風呂



ダリ子さん「この絵に原作寄りSSを!」
ボロ「( ゚Д゚)」

そんな会話と絵から生まれたSS「雪見風呂」
どんな絵かは見てのお楽しみ(*´з`)


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雨 5



【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】

・黎翔さん21歳(大学生)夕鈴17歳(高校生)の時のお話


*-*-*-*-*-*-*-

私は普段から嫌なことがあると無意識に公園に来ていた。
だから今日も自然と足が公園に向いてしまっていて、気が付けば東屋に来ていた。
そしてそこにはイライラの原因となった人がいて、思わず逃げようとしたらなぜかタイミングよく雨が降ってくる。
傘を持っていなかったけれど、そこに居るより濡れた方がましだと思って立ち去ろうとすればまた手を握られて、放して、放さないの押し問答をしていたら本格的な雨になってしまったから仕方なく雨宿りする事にした。

「まあまあ、そんなに怒らないで?」
「怒ってません」
「所で今日は冬の制服なんだね」
「今日から10月ですから」
「夏服も可愛かったけれど、冬服はもっと君が可愛く見える」
「ありがとうございます」

それから話しかけられても無視を決め込んで、とにかく雨が早く上がることを祈った。
雨が上がるとそのまま無言で東屋を出ようと思って荷物を片づける。

「…もう行っちゃうの?」
「はい、帰ります」
「最後に一つだけ教えて? どうしてそんなに怒っているの?」
「え・・・?」

そういえば自分は一体何に対して怒っていたんだろう?
触られた事? 家の近所までついて来られたこと?

「とにかく、失礼します!」
いたたまれなくなって逃げてみたけれど、雨上がりの石の階段は濡れていた。
足が滑ってバランスを崩すと目の前に地面が迫ってくる。
このまま水たまりの中に落ちて、今日出したばかりの冬服が泥だらけになる事を覚悟していた。
けれど、いつまでたっても地面に体が叩き付けられる事もなく、水たまりに落ちた感触もなく恐る恐る目を開けると背中に誰かの感触があった。

「・・・大丈夫?」
「ひっ・・・・!」

心臓の鼓動があり得ないくらい早かったからその場はコクコクとうなずくのが精一杯だった。

放してもらってすぐに「ご、ごめんなさい!」と言ってその場を逃げ出す。
駅まで走って電車の中でようやく呼吸が整って平静に戻り、これまでの事を冷静に思い返した。


次の日学校で一緒にお昼を食べていた友達数人の会話が自然と恋の話になっていたみたいだけれど、半分考え事をしながらその話を聞いていたから恋の話になっているとは気が付かなかった。

「ねえ、夕鈴は気になる人いないの?」
「気になる人?」
「その顔はいるのね、誰?誰?どんな人?」
「うーん、最近気になる人は眼が赤くて髪が黒い人だけど・・・」
「身体的な特徴じゃなくて!手は!?手をつないだ事は!?」
「ある・・・かも?」
「なんで疑問形なのよ。でもついに夕鈴も恋してるのね!?」
「こい? こいって泳いでるあれ?」

その後、友達に呆れられながら上の空で返事をしていたらいつの間にか昼休みは終わっていた。


放課後、モヤモヤした気持ちを抱えながら公園に行く。何時もの場所に何時ものあの人がいた。
ほっとした反面、逃げようかと思ったけれどこの前転びそうになった所を助けてくれたお礼を言わなきゃいけない。
ここで逃げたら二度とあの人に声を掛けられないと思い、勇気を出して声を掛けた。

「あの、こんにちは」
「雨じゃないのに会えてうれしいよ」

そういえばこの人はここで何時も何をしているの?
でも今は、今はお礼を言わなくちゃ。

「あの、この前は助けてくれて…ありがとうございます・・・」
「ああいいよ、気にしないで?君に怪我がなくてよかった」
「今度・・・」
「ん?」
「今度お礼をさせてください。すみません正直今日いらっしゃるとは思わなくて…」
「別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないからいいよ」
「でも、それじゃ私の気がすみません!」
「それ前に僕が言った台詞じゃない?」
「あの、今日は正直ここにいると思ってなくて、何も用意してなくて・・・」
「じゃあ一つお願いしてもいい?君の名前を教えて? まだ名前を教えてもらっていないから」
「夕鈴・・・。汀夕鈴です」
「僕は黎翔、珀黎翔。大学3年。君は?」
「高校2年生です・・・」
「その制服は僕の大学の付属校だよね」
「そうなんですか? それならこれから『先輩』ってお呼びしてもいいですか?」
「構わないよ。僕は、君の事なんて呼べばいいかな・・・?」

そうして石段の上から差し出された手を手に取りながら階段を上った。

「みんな名前で呼びます」
「そう、じゃあ夕鈴?」

名前を呼ばれて今まで感じたことのない、少しくすぐったい気持ちになる。
夏の名残がまだ残る秋の初め、雨上がりのその日は、綺麗な夕焼けがまだ青い木の葉を赤く染めている。
この時、まだ若かった私は公園で出会った不思議なこの男の人が今後の人生に大きく関わる事になるとはこの時点では少しも思っていなかった。


終わり


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雨 4



【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】

・黎翔さん21歳(大学生)夕鈴17歳(高校生)の時のお話


*-*-*-*-*-*-*-

「お探しの人はあっちに行きました」
そう言って別れた日から数日後、また雨の日が来て公園に行った。
東屋にはやっぱりあの人がいて、相変わらずビール片手にパソコンと本。
何時もここでこの人は何をやっているんだろう。
なんで私はここに足を運んでしまうんだろう。
そんな事を考えながら溜息を付きつつ声を掛けた。

「こんにちは」
「・・・・この前は合わせてくれなかったみたいだね?」
「何のことでしょうか?」
「まあいいけど」

溜息を付かれたけれど聞かないふりをして何時ものようにあの人の向かいに座る。
勉強を始めるといきなり隣に座られて、手首を捕まれた。
突然の事にびっくりして、近すぎる顔に驚いて思わず後ずさりをする。
でもここは狭いベンチの上。逃げ場なんてすぐに無くなる。

「今度は合わせてね?」

耳元で囁かれた低い声にぞわっとした感覚が体を駆け巡る。

「ひっ!」
訳の分からない初めての感覚に目を瞑り、その感覚が治まるのを待った。
目を開ければすでにあの人はもういなくて握られた部分を土埃を払うように払う。

なんなの、あの人!


それからは何度も雨が降っていた日があったけれど公園に足が向くことはなく、ただ時間が過ぎていった。

そしてある日、帰ろうと思って駅に行くとなぜか駅にあの人がいた。

「やっと見つけた」
「・・・今日は雨、降っていませんよ?」
「最近雨の日に公園に来てくれなかったじゃない?」
「雨の日に必ず行くという訳ではありませんから」

言い捨てるようにして改札に入って電車に乗る。
電車を降りても一定の距離を保ってあの人は私に付いてきた。

「付いてこないでください」
「そんなに怒らないで、この前僕なんかした?」
「身に覚えがないんですか?」
「うん、全くない」

その後の言葉が出てこなかったから睨んでおいた。

「ねえ、そんな怒った顔しないでよ」
「どこまで・・・・」
「え?」
「どこまで付いてくる気ですか?」
「特に決めてないけど、せめて機嫌を治してくれるまで?」
「多分ずっと治りませんから安心してください」
「手厳しいね。でもそんな所が可愛い」

そろそろ、本気で走って逃げようかと思った所だった。
走り出そうとした瞬間、手を捕まれ「放してくださいっ!」と叫んだ。

すると別の声が響き渡る。

「おいっ! 何やってる!」

この声は・・・

「あれ、君この辺に住んでるの?」
「俺が何処に住んでいようがお前には関係ないだろ?」
「まあね。でも今取り込み中、あっち行っててもらえるかな?」
「知るかよ。いいからそいつから手放せって」
「君には関係ない。だからもう一度言う、あっち行ってもらえる?」
「幼馴染が変な男に絡まれてる。関係ないわけないだろ?」
「変? 変とは心外だな」

几鍔…。
2人の間に火花が散って、空気が重くなったその場を一瞬の隙を付いて逃げた。

「もう2人とも私に構わないでよっ!!」

そうやって逃げ帰った日の次の朝、家を出るとなぜか几鍔が家の前にいた。

「おい夕鈴、昨日の奴はなんなんだよ」
「あんたに関係ないでしょ? それより何であの人とあんたが知り合いなの?」
「知り合いっていうか大学の先輩だよ。学部はちがうけどな」
「あっそ。貴重な情報ありがとう。兎に角私には構わないでもらえる?」
「言っとくけどな、あいつに関わると碌なこと無いぞ。お前とあいつじゃ釣り合いがあわなすぎる」
「名前も知らない人と釣り合いなんて取る必要ない」

そう言い捨てて学校に行く。まったく、昨日から嫌な事だらけ!
だから近々学校帰りに公園に行こうと思った。

自分はよっぽど怒っていたらしい。あの人がそこで待っているという考えは、全くなかった。

*-*-*-*-*-*-*-


雨 5


雨 3


【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】

・黎翔さん21歳(大学生)夕鈴17歳(高校生)の時のお話


*-*-*-*-*-*-*-


梅雨が明けて以来、雨は降らなかった。
だいぶ時間が経って夏が終わりかける頃、ようやく雨の予報が出た。
その日は運よく学校が午前中で終わる日。
学校が終わるとすぐに公園に足を運んだ。
公園を一通り回ってから最後に何時もの東屋に行くけれどまだ誰もいない。

公園の木は葉を次の季節に向けて赤く染めようとしている。
東屋から公園の景色を眺め、予習が一通り終わってしまうくらい時間が経っても誰も来ない。

今日はもう来ないと思って帰ろうと東屋を出た瞬間、待ち人はやってきた。

「せっかく来たのにもう帰っちゃうの?」
目の前には久しぶりに見る赤い瞳の人がいた。
「そろそろ帰ろうかと・・・・。丁度よかったです」
鞄に入れていたハンカチを差し出す。

「え、これ?」
「この前落として行かれたんですよ」
「でもこの前って」
「梅雨の時ですから2か月くらい前でしょうか?」
「・・・・・ずっと持っていてくれたの?」
「あの、ご迷惑でしたか?」
「そういう訳ではないけど・・・。ありがとう」
「それでは失礼します」

今日はまだ雨が降っていないし、傘もあるから雨宿りの理由がない。
出ようとした瞬間、手を捕まれた。

「待って、お礼させて?」
「え、でも・・・」
「お願い」

真剣な瞳から逃げる事ができず、あっという間にその人の思いの場所まで連れていかれた。



「何がいい? クレープ? パフェ? ソフトクリームもあるよ?」
無理やり手を引っ張られるようにして公園近くのコンビニに連れてこられる。
何度かお礼が欲しいからやった訳じゃない。と言ったのに自分がお礼したいだけだからと言われて、それでも断っていたら『はい』としか言えない状況を作られ、私が折れる事になってしまった。

「あの、放してください」
「あ、ごめんね。君が不意に居なくなりそうでつい。で、何にする?」
「……ソフトクリームでお願いします」
「バニラ? チョコ?」
「バニラがいいです」
「了解」

ソフトクリームを買ってもらって公園の東屋に戻ると丁度雨が降り始め、また雨宿りの時間が始まった。
今日が何時もと違うのは、そこから響く音が雨の音と二人の声だったという事。

「いただきます」
雨が降っていてもまだ暑いこの時期に食べるソフトクリームはとても美味しい。
私がソフトクリームを食べている間、あの人はやっぱり本とパソコンの前でビールを飲んでいる。
目の前の人を観察していて疑問に思ったことを食べ終わると同時に聞いてみた。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん? 何?」
「何でいつもビールを飲んでいるんですか?」

何時も疑問に思っていた事を勇気を出して聞いてみたら凄い笑われた。

「な、なんでそんなに笑うんですか!?」
「ごめん、ごめん。突拍子もない質問だったからつい」

不機嫌な顔をしている私を見てさらにあの人は笑い出す。

「ビールを飲む理由だっけ? 特に意味は無いよ。強いて言えば美味しいから」
「はあ、そうですか・・・」
「君は面白い子だね」
「え?」
「雨の日にしか公園に現れない、僕の事を聞いてくれたと思ったらビールを飲む理由。面白い。今まで僕の周りにいなかったタイプだ」
「はあ、そうですか・・・」
「一応言っておくけど、褒めてるからね?」
「はあ、そうですか・・・褒められている気がしませんけど・・・」
「あ、ちょっと」

急に呼び止められるように声を掛けられてびっくりしていると、さっき渡したハンカチで口元を拭いてもらった。

「・・・アイスが口の周りに・・・」
「あ、ありがとうございます。あのそのハンカチ、また洗ってお返しします」
「・・・そう? じゃあまた次の雨の日に会おうね」

少しクスリと笑ってからあの人は私を東屋に置いて帰っていく。一人になって溜息を付いた。
せっかくハンカチ返せたと思ったのに。


次の雨の日は一週間くらい後だった。
夕方学校が終わって公園に行くと東屋にはあの人が既にいる。

早々にハンカチを返し、よかったらっと一言付け加え作ったお菓子を渡すとすぐに包みから出して美味しいと言って食べてくれたのが嬉しかった。

今日もまた静かな時間が流れていたかと思ったらその後、私が兎みたいだとかそんな事を言われながらさんざんからかわれた。
そして急に「ごめん時間切れ。また口裏合わせお願い」と言って去って行く。

その後、後ろに髪を束ねた男の人が来てまた声を掛けられた。
でも今日は正しい方向を指さす。

「お探しの人はあっちに行きました」


*-*-*-*-*-*-*-


雨 4


雨 2


【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】

・黎翔さん21歳(大学生)夕鈴17歳(高校生)の時のお話

*-*-*-*-*-*-*-


次の日の学校帰り、天気は悪くなかったけれどなんとなく公園に足を向けてみた。
そう、私があの公園に行くのは天気が悪いときだけじゃない。日常を忘れたい時。

昨日の東屋には誰もいない。椅子に座って外を見ていたけれど東屋を出て池のほとりに立ってみた。
今日は風が優しく吹いている。風になびく木の枝が重たく揺れるけれど、枝先は池の水面に付きそうで付かない

池は魚が跳ねて、鳥がゆったり泳ぐことで水面が揺れる。
綺麗な水は周りの木々を映し、曇りの空から少し顔を出した太陽の光をキラキラと反射させていた。
梅雨の晴れ間にしては日差しが眩しくて、水面に付きそうで付かない枝先が水面に触れるまで見ていたいと思っていたけれど、早々に帰宅することにした。

それから数日間、梅雨の途中なのに雨はまったく降らない。
天気予報はそろそろ梅雨明けだと言っていたし、テストも終わる。
しばらくあの公園に行く理由も無くなりそう。
テスト期間最後の日、雨が降り出してきそうな空模様。
なんとなく公園に足を運ぶことにした。

何時もの公園につくと今日は特に景色を見て回るなんてことはしないで一直線にあの東屋に行く。
誰もいない場所であの人を待つわけではなく、なんとなくそのまま勉強を始めた。

「こんにちは、また会えたね」

大分時間が経ってから急に話しかけられ驚いて顔を上げると、目の前にはあの雨の日の先客がいた。

「そう…ですね…」
「はい、これ」

差し出された缶ジュースを一瞬受け取っていものかどうしようか悩んだ。

「あれ? ひょっとして炭酸嫌い?」
「いえ、嫌いではないですけれど…」
「この前口裏合わせて貰ったお礼。受け取ってくれる?」
「あ、はい、ありがとうございます」

向かいに座ってパソコンを置いたあの人を呆然と見ていた。

「どうしたの? よかったら飲んで?」
「え、あの、その・・・・」
「炭酸嫌いだった?」
「いえ、嫌いではないですけど」
「ならよかった。雨も降りだしたしまた二人で雨宿りしようよ」

言われて外を見ると、いつの間にか雨が降り出してきていた。
缶のプルタブを開ける音が二つ重なるとそれを合図に無機質な音しか鳴らない時間が始まった。
私は蜂蜜レモンソーダ、あの人は缶ビール。
本を読みながらパソコンに向かうあの人と、ノートにシャープペンシルを走らせる私。

その時間は、あの人が本をパタリと閉じる音が終わりの合図だった。

「ねえ、君は次はいつここに来る?」

本を閉じる音と同時に話しかけられて吃驚して顔を上げると、真剣な赤い目が私を見つめていた。

「分からないですけど・・・強いて言えば雨が降った時、でしょうか?」
「そう、分かった。次の雨の日に会おうね?」

気が付けばテーブルの上はいつの間にかあの人の荷物は綺麗に片づけられていて「じゃあね」と言いながら私の目の前から去っていく。
雨上がりの公園を何かから逃げるように走るあの人を目で追っていると、何かが落ちる瞬間を見てしまい、それを慌てて拾った。

「あの! 忘れ物!」

私の声がすでに走り去ったあの人に届くことはなく、前回の髪を結った男の人がまた来ないかと思って少し待ってみたけれど来るはずがなかった。
こうしてテストの最終日、2回目の雨宿りはあの人の忘れ物を置き土産に終わった。


私のテストが終わったとたんに晴れが続いて梅雨明け宣言が出され、それ以降雨が降らないうちに夏休みになった。
夏季講習で夏休みがほぼ全部つぶれて時間があまりなかったけれど、学校帰りに何度か公園に寄ってみる。
でも雨が降っていないからあの人が東屋に来ることはなく、忘れ物は何処にでもありそうな普通のハンカチだからそれだけでは持ち主も特定できない。
せめて雨が降ってくれればすぐに返せるのに。
ほんの少しだけ、あの時に次ここに来るのは雨が降ったとき言ったことを後悔した。

学校の授業の合間、窓の方を見ると空は青くて太陽が強い日差しを指してくる。
空を見ながら何となく、一緒に雨宿りしただけのあの人を思い出す。

学校の帰り道、真っ赤に染まる太陽を見て思わずつぶやいた

「梅雨なんて、あけなければよかった」

*-*-*-*-*-*-*-


雨 3

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