スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

包む味

前回の話「七色の想い


【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】
・二人は同じ会社の同僚(黎翔さん部長、夕鈴平社員)です
・二人はいつの間にか同棲していました。


-*-*-*-*-*

「ねえ夕鈴今度の休み、時間が取れたらどこか出かけない?」
「それもいいですね、何処に行きましょうか?」
「夕鈴が行きたいところでいいよ? 考えておいて?」
「はい、分かりました二人で楽しみましょうね?」


そんな会話があったのは1ヵ月くらい前の雨の日

あれから部長は全く休みが取れないと言って土日も毎日出かけていく
金曜日と土曜、日曜日は「夕鈴ごめん」と言って悲しい顔をして下を向く部長を見て私が「また来週もありますから」と返す日常が繰り返されていた。

そしてまた今日も休みが取れなかったと言って朝、出かけて行った
一人残された部長の広いマンション、居間に叩きをかけて掃除機を掛けて吹き掃除をする。今日は何となく何時もは拭かない窓も拭いていた。
高いところは何時も危ないからと言って部長がやってくれるけれど今日は足場を用意して届かない部分に思い切り背を伸ばして拭き、それが終わると今度は水周りの掃除をして、気が付いたらもうお昼と呼べる時間は過ぎていた。
簡単に食べ物をお腹に入れてから冷蔵庫中身を見つめ夕飯をなににしようか考えて残っている材料からアレを作ろうと思い、夕飯のメニューも決まったし時間までお気に入りのマグカップにお茶を入れてほっと一息つくことにした

そのお茶はほのかに林檎の香りがするお茶で、イライラするときや不安を感じるときの心をそっと癒してくれるような心なごませるその香りと、やわらかな咽越しが好きだった。
味と香りを楽しんでいたらふと、鳥かごをモチーフにしたカレンダーが目に入ってきた。そのカレンダーを見ると、出かけようと誘われてからどれだけの時間が過ぎたのかを教えてくれる事になってしまうからそっと視線を手元の本に戻した。
本を読みながらそのお茶と香りを楽しんでいたら携帯電話の着信が鳴る。
着信音がメールの受信相手は部長だという事を教えてくれてワクワクしながら画面を見ると「ごめん明日も出勤になった」と短い一文だけ送られてきてため息が出てきてしまって「分かりました。」としかメールの返事を打てなかった。メールを打ちながらこの携帯電話は部長と付き合う前から使っていた携帯電話で着信音を特別にしたのは部長が始めてだったな。なんて考えながら残りのお茶を飲み乾した

お茶を飲み終わってカップを片付けようとキッチンに向かう。食器を収納している棚に目をやるとおそろいのカップが目に入る。色違いのそれは二人で住みはじめた時に食器を買いそろえようと二人で出かけたときにそろえた色違いのカップ。最近使われることの無いそのカップを見てまたため息が出てきてしまい何とかそのため息を飲み込んで、自分のカップを洗うと水切り籠に戻し、小麦粉をボールに入れた。

小麦粉に塩を少量溶かしたお湯を混ぜ込んで捏ねていたら自分の嫌な気持ちが出てきたからその気持ちは生地を捏ねる力に変換した。
ある程度捏ねて弾力が出てくると、生地に濡れたペーパーを被せて休ませる。その間にスープやサラダを用意して、冷蔵庫に入っていた果物を食べられるだけの状態にしてまた冷蔵庫に戻す。
それらの作業が終わると今度はさっき作った生地に包む中身を作るために野菜を用意してそれをみじん切りにする。どんどんみじん切りになっていく野菜はボールに溜まっていき、それに先に練って置いておいたお肉を追加して全体が混ざるようにして生地みたいにまた気持ちを込めて捏ね、肉餡に粘りが出てきたら練りあがった肉餡を休ませるために冷蔵庫に入れておいた。今度は生地を再度捏ね、一つ一つ小さい塊にしてその塊を薄く伸ばす。
その伸ばす作業が楽しくてなるべく丸く綺麗な物を作ろうとこだわって作業していたら薄い皮が30枚くらい出来上がりそれに肉餡を包む。生地に何個も襞を作りながら包み込み、その襞の隙間からにじみ出る汁のように嫌な思いが水蒸気のように飛んでいけばいいのにと思いながら包んでいた。最後の一つを包み終わって最後に襞が崩れないように少し力を入れて形を調えお皿に置くと、不意に何かに自分の体が包み込まれた。


 急に感じたその感触に吃驚して私を包み込むその感触の招待を確認すると、背中には急いで帰ってきたらしい部長がいた。

「ただいま… チャイム鳴らしても出迎えてくれないから何処かに行ってしまったのかと思った」

抱きしめる腕の力が強まる。

「ごめんなさい… 気が付きませんでした…」

その返答に満足しない部長はちょっと意地悪をするかのような、でも不機嫌そうな顔をしてスーツのネクタイを片手で緩めながら「おかえりは? 僕より料理に夢中なんて… お仕置きしようかな…」何て言ってきたからそこから逃げようと腕の中でもがく

「部長の為に作っている料理なのですからそんな拗ね方しないでくださいっ!」
「夕鈴が僕の為にご飯を作ってくれているって初めて直接聞いた… 嬉しい」

また腕の力が強まるからまた放してともがいていたら水切り籠の方からカチャっと音がする。
どうやら抵抗する振動が水切り籠に伝わっていたようで、さっきお茶を飲んでいたお気に入りのおそろいのマグカップが床に吸い込まれて行って二つに割れる。

「「あ・・・・・・・・。」」

パリンという音だけが自分の耳に響いてきて、その音がマグカップから目を外せなくさせる。慌てて割れたものを片付けようとしたら

「まって、僕が片付けるよ」
「すみません・・・。」
「気にしないで、僕も悪いから・・・。お腹すいたから夕鈴は夕飯の準備お願い」

そうして私を腕の中から解放して部長は新聞紙にマグカップを包み込んでいた。
私は夕飯の仕度に戻った。包んだ餃子を普段は水餃子にするけれど、今日は焼き餃子にする。
嫌なその思いが焼くことで蒸発していく水蒸気のように飛んでいけばいいのにと思ったから。

食事の準備が終わって二人で食べていると、部長が話し始めた

「ねえ夕鈴明日、なるべく早く帰ってくるようにするから、そしたら買い物に行かない?」

時間が無いから遠出は無理だけれどね? と付け加えられ
何処かで聞いたような言葉と思いながら私も返事をする。

「それもいいですね、何処に行きましょうか?」
「夕鈴が行きたいところでいいよ? 考えておいて?」
「はい、分かりました二人で楽しみましょうね?」

何時の日か繰り返されたその会話をまた繰り返しながら食事が済む。
部長はきっとまたおそろいのカップを買いに行こうと言っている。デザートの甘い果物を食べながら、前に作った蜂蜜レモンの蜂蜜の味を思い出すと思わず笑みがこぼれ、そんな私を見ていた部長から笑顔を送られた

「部長は新しいマグカップ、どんなカップがいいですか?」
「夕鈴が気に入った奴なら何でもいいよ」
「もう、部長はそればっかり」
「だって本当の事だよ? 夕鈴が気に入ったカップにして。君が気に入ったカップならきっと僕も気に入るから」

部長は何時だって私に甘い味をくれる。たまに苦い味の時もあるけれど、何時もくれる甘い味に包み込んでしまえばその苦味は気にならない。
今日も私は部長に体も心も甘い空気に包み込まれたまま




スポンサーサイト
Secret

訪問者

検索フォーム

RSSリンクの表示

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。