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廻る色 前編


朝日が昇りきらない頃に夢をみて目が覚める。夢を見るのはそう珍しい事ではないが最近見る夢は嫌な夢だった。
僕が夕鈴に触れると、触れた所から夕鈴の全身が黒くなっていく夢で、それはまるで毒に反応して黒くなった銀食器のようだった。
外にいた隠密に夜中の出来事を聞くが特に変化は無いという。
この夢を見るようになったのがきっかけで夕鈴周辺の警護を多少強くしていた。

額に浮き出る汗を拭き、湯浴みの準備をさせながらずいぶん自分が弱くなったと少し笑った。
僕が今一番恐れることは多分夕鈴が居なくなる事。
昔、失うものが何も無かったから何でもできた。
でも今は? 今は彼女を守ろうとする気持ちが黒い自分を煽っている。
そんな自分を夕鈴には知られたくないと思うのは我が侭だと分かっている。
けれど最近よく見てしまう嫌な夢はそれを知ってしまった夕鈴が、僕から離れて行くという方向に考えを向けさせるには十分すぎる内容で、その気持ちが何度もその夢が繰り返えす。
何度も繰り返す嫌な夢と考え。せめて目が覚めている間はそれを忘れたい。
我が侭から来た思いを忘れさせてくれるのは、そんな我が侭を僕に言わせた夕鈴ただ一人。
午前の政務が終わると庭にいるという夕鈴の所へ足早に向った。

庭に行くと優しい歌が聞こえて来る。夕鈴の歌声。庭にある花に囲まれた場所の中心に座り歌を歌っている。
侍女が遠くに離れた位置で待機していたから合図を送り下げた。木の上にいた浩大も僕が来たから遠くに行った。
夕鈴が歌っていた歌の歌詞は、願いを叶えたい人のその願いと想いを歌った歌詞で、その歌を少し離れた所から耳を澄ませて聴いていた。
異国の曲調で始めて聴くはずなのに夕鈴が歌っているから心地よく感じる
歌詞がはっきりせずに歌えない部分がでてくるが、それさえも心地いい。

歌に夢中になっている夕鈴にそっと近づき、抱きしめる。歌声が止まるけれど「続けて」と囁けばまた歌が始まる。
この声を子守唄に夜眠ればあの嫌な夢は見なくなるのだろうか?
夕鈴は何度も歌を繰り返し歌ってくれ、それは侍女が昼餉の準備が調ったと呼びに来るまで繰り返された。
「ごめんねずっと歌わせちゃって。喉、痛くない?」
「大丈夫ですよ。老師に先ほど教えていただいた歌なのですが陛下にいち早くお聴きいただけてうれしいです」
食後のお茶を飲みながら夕鈴と会話をしていた。
「不思議な歌だね」
「はいとても気に入ったので無理を言って教えていただきました」
でも練習の途中だったので少し恥ずかしいですと笑った夕鈴が可愛い。
「今度完璧に歌えるようになったらまた聞かせてね?」
「はい、勿論です」
昼餉の時間はここで終わり。この時間だけ撒き戻してずっと夕鈴の傍にいたかったけれど、そんな事は出来るはずが無い。
耳元である言葉を囁けば夕鈴は夕日のように顔を赤くする。
くるくる変わる表情見ると、今朝見た悪夢を思い出し、胸の奥で少し違和感を感じたけれど気のせいだと思い込む事にした。



夕刻、夕鈴は湯浴みの準備をしていた。王宮での生活は常に誰かが傍に居る何かと気を使う生活ではあるが、湯浴みの時だけは一人になれる
朝は目が覚めるとすでに侍女が待機し、そのまま身支度と見つめられながらの食事。
政務室へ行く途中も侍女が後ろを一定の距離を保ちながらつき従い、部屋で一人になっていても、小さな声を発せば直ぐに返事が返ってくる位置に常に誰かが控えているから気が抜けない。
立ち入り禁止区域の掃除をしている時は浩大や老師が必ず傍に付いている。
妃という仕事の特性上、常に誰かが傍に控えているのはしかたのないことなのだがそれでも少しは一人の時間が欲しい。
時折夕鈴が眠るまで傍に居る黎翔も湯殿の中までは、よほどの事が無い限り入ってこない。
一日の中で唯一ひとりになれるのは湯浴みの時間だけであった。

「は~。今日も疲れた・・・・」

昼間は政務室通いや掃除。さらに妃教育をするため普段はゆったり過ごす時間が少ない。
僅かな時間とは言え、今のうちに疲れを少しでも取っておかないと明日身が持たない

唯一とは言え下っ端妃である夕鈴が使う湯殿は他の妃が使う湯殿に比べ少し狭いが、夕鈴にとっては十分な広さだ。このバイトをしていて良かったと思える事の一つは毎日湯浴みが出きる事。

妃衣装を脱ぎ、湯殿に入ると良い香りが漂ってくる。今日はこの後黎翔と夕餉を取る事になっているため、侍女が気を利かせて花湯にしたのだろう。
用意されていた花湯には小さな花が無数に浮いており、それらが薄暗い湯殿の中に差し込む夕光に照らされ幻想的な雰囲気を出していた。

湯殿で繰り広げられている花の舞を目で楽しむと最初に体を洗い、洗い終わると湯の中に入り手足を伸ばす

「はぁ~、気持ちいい・・・」

今日一日の妃演技や掃除で強張ってしまった肩のこりをほぐし、足もゆっくりと揉む。
深呼吸をしてそのままゆったりと肩まで湯に浸かる

すると、急に悪心に襲われた。
思わず吐気を抑えようと手で口を被うとさらに吐気が強くなってくる。
何か悪い物を口にしただろうか。最後に口に入れた物を考えるけれど、最後に物を口に入れたのは午後の立ち入り禁止区域の掃除が終わってから老師に淹れてもらったお茶。
それも大分前だ。そもそも老師が渡してくれたものの中に毒が入っているはずが無い。
湯に入る前、体を洗った時には特に体調の変化は無かった。

一瞬、気のせいかとも思ったが、我慢できないほどの強い吐気は気のせいではない
吐気の次は心臓がありえない速さで鼓動を打ち始め息が出来なくなってくる
最後の力を振り絞り、湯の中から這い上がり呼吸を整えようと深呼吸をするが、それは逆効果にしかならなかった。
手足が痺れ出し思うように動かせず、湯殿の入り口までたどり着く前に床に倒れてしまい、その反動で胃の中の物を全て吐き出してしまった。
嘔吐した物が広がった床は石で出来ている。女官によって床も温められていたとは言え、冷たさが直に伝わり全身が震え、それ以降は声が出なくなって侍女も呼ぶ事もできなかった。
視界もゆっくりと狭ってきており、それは意識を手放す寸前だというのが自分でも分かる。途中、心の中で必死に叫んだ言葉は誰にも届く事は無かった。




夕鈴が湯殿の中で意識を無くした時と同じ頃、黎翔は夕鈴の部屋に来ていた。
少し早めに仕事が終わったため、中途半端に終わってしまった昼餉のお詫びと歌を歌ってくれたお礼をかねて夕餉が始まるまでの短い時間を2人で過ごそうかと思ったのだが夕鈴の姿はない。
「妃は?」
「は、はい、お妃様はただいま湯殿でございます」
黎翔をそれを聞いて珍しいと最初に思った。普通は黎翔が来るまでに準備を全て終えて部屋にいる。早めに来てしまったから用意が終わってなかったにしても遅すぎる。
少しの不安を感じながらも一人で待っているのは退屈だと思った黎翔は、夕鈴を湯殿まで迎えに行くことにした。
女性が身支度を整える所に入って行っては行けないとは、頭で分かってはいるが、それが終わるまで待つ時間が勿体無い。
支度の最中に入っていけば夕鈴はどんな反応をするのか想像すると思わず笑みが漏れるが、湯殿まで行く廊下はまだ人の目のある場所。
ここで表情が崩れている王を女官達に見られる訳にはいかない
一つ咳払いをして顔を正すと目的の場所に向って足を速める。

夕鈴が湯浴みをしているはずの湯殿につくとなにやら扉の向こうが騒がしい。黎翔が部屋に来たとの知らせを聞いて慌てて支度をしているかと思ったが少し様子が違い、ここ最近黎翔が感じていた小さな不安が悪い方向へと考えを向けさせる。
そういえば先ほど慌てて走る女官を遠目に見た。
予想が外れてほしいと黎翔が願いながら扉を開けると、目に入ってきたのは侍女、侍医、老師に囲まれながら青い顔で嘔吐を繰り返す夕鈴だった。

慌てて駆け寄ると湯殿のなかに漂っていた花の香りに黎翔の表情がゆがむ。
色々な匂いに混じって気が付きにくいが、湯の中に浮かぶ花の中には予想通りの物がそこにあり、思わず舌打ちをした。
一瞬黎翔は我を忘れそうになるが、それをさせなかったのは夕鈴の弱々しい声だった。
「へ・・・い・・・?」
「夕鈴? 大丈夫?」
「ごめんな・・・」
喋っている途中夕鈴は再び嘔吐に襲われ、胃の中の物を懸命に吐き出そうとするがすでに胃の中には何も無く、何も無い所から何かを出そうとするその音はとてもではないが辛そうで黎翔の表情はより一層険しくなった。
「妃を部屋へ連れて行く!!」
体の上に掛けられていた布ごと夕鈴を抱き上げる。伝わってくる体温が何時もの心地いい温もりではなかった。


数刻後、夕鈴の部屋には何度も嘔吐を繰り返す夕鈴とその背中をさする黎翔、騒ぎを聞きつけやってきた李順、それに震えながら容態を説明する侍医の姿があった。
「お妃様の嘔吐、震えは花湯の中にまぎれていた毒花が原因かと思われます。湯に毒が染み出し毒を含んだ湯気やお湯が僅かに口の中に・・・」
「もういい」
全身を震わせながら嘔吐し続ける夕鈴を介抱する黎翔の声は冷たい。
花湯に紛れていた毒花は解毒剤がない物で、後は夕鈴がいかに自分で回復するかが鍵なのだが、湯殿から部屋に運んで大分時間が経っても呼吸も時折不自然に速くなり、嘔吐が収まらない。目を離せば嘔吐したもので窒息してしまう可能性もある。
また水を飲ませれば全てそれを吐き出してしまうため薬湯も、水分すらまともに取らせる事が出来ず目が離せない状況が続いていた。
楽になるよう夕鈴の背中をさすり続ける黎翔の手には自然と力がはいる。

「へいか、私は大丈夫で・・・ごほっ」
「君の大丈夫は信用できない」

少しでも怒りの表情を夕鈴に見せれば不安がってしまうが、その表情を隠す事ができない。
なるべくにこやかな表情を出してはいるつもりだが、黎翔の内心は腸が煮えくり返る思いだった。
嘔吐や全身の震えが収まりようやく夕鈴が眠りについたのは夜も更けてからで、水分はまだ受付けないものの当初よりも落ち着いてきた夕鈴の表情を見た黎翔はほっと胸を撫で下ろす。

「・・・老師、今回の件どういう事だ?」
眠る夕鈴の手を握りながら送られる視線に老師と李順は冷や汗を掻いた。
「湯殿に入れる花はわしが用意しましたが毒花なぞ、入れた覚えありませんのぉ」
「ふん、今回の件は鼠が入り込めるだけの隙を作ったお前の責任だ」

握っていた夕鈴の手をそっと掛け布の中に入れ、髪を撫でてからおでこに口付けを落とすと帳を下ろす。
隣の部屋で会話の続きが始まった。

「李順、もう雇い主は分かっているんだろうな?」
黎翔は無言で差し出された報告書に目を通すとそのまま判を押し立ち上がる

「さてどれだけ耐えられるかな・・・」
そう口角を上げ、不適に笑いながら言う言葉はこれから捕まる雇い主がどれだけ苦痛に耐えられるかなのか、黎翔がどれだけ怒りを押さえつけられるかなのか、どちらにも取れるその言葉に部屋にいた全員が震え上がった。



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