FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

風船 3



【二次創作SS】【黎翔×夕鈴】【現代パラレル】
・年齢詐称有り 黎翔さん28才、夕鈴24才
・二人は同じ会社の同僚(黎翔さん部長、夕鈴平社員)です

-*-*-*-*-*


私が部長のお茶を淹れると部長の機嫌がよくなるからという理由で私がお茶汲み当番では無い時も部長の分だけ淹れるようになって暫く経った。
始めは疑問の声を上げる女子社員も居たけれど、部長は私がお茶を淹れた時に限って機嫌よく仕事を進めている。部長を恐れている社員と仕事が滞ると困る課長達によってそんな声が揉み消されていた。

冬の初めからアパートの前で私の帰りを待つようになった部長も土日以外、相変わらず毎日待ち伏せされていた。
一度寒くて風邪を引くから早く帰って下さいと抗議した事もあった。
けれど自分は丈夫だから大丈夫だと言われてしまい、遠目にアパートの前に居る部長の姿を確認して近くの公園で時間を潰してから帰った時もあった。
それでも部長はずっと待っていてくれて、自分の事が心配ならそんな事しないで早く帰ってくればと言われてしまい、何も言い返せなくなった。

部長がアパートの前で私の帰りを待っているようになって一ヶ月、冬が進むと段々寒くなってくる。時間が経過する度に帰宅するとアパートの前で待っている人の存在とその後に感じる視線が次第に気にならなくなっていた。


ある週の木曜日、仕事で帰宅が何時もより遅くなりその日は部長が珍しくアパートの前に居なくて、一日の終わりに部長と言葉を交わす事が出来ていた事を楽しみにしていた自分がいると認識してしまって涙が出てきた。

だって、部長には部長の大事な人が部長の家で待っているはずだから。
私にあの人がしつこく付きまとうのは学生時代の知り合いという事で気にかけてくれているんだ。
あの時、あの人は私には手が届かない人だと自分に言い聞かせて諦めた人のはず。
締め付けられる胸を押さえながら部屋に入ると一瞬だけ光る強い光が部屋を照らした。

一瞬何が起こったのかと思うけれどとりあえず逃げなくてはと思い、洗い桶に置いてあったカップをバックの中に放り込んでドアに鍵をかけて走り出した。

夜の道路を必死で走ると少し大きめの公園にたどり着く。
始めブランコに乗っていたけれど夜遅くに雨が降り出してきたから遊具の中に体を入れて雨と寒さをしのいだ。
そして昔の事を思い出す
昔の楽しかった事を思い出して思わず笑ってしまった。
寒さで体は冷え切って手足が震えるけれど、昔の出来事を思い出すと心が温まる
するといつの間にか朝になっていて、腕時計を見ると出社ギリギリの時間で慌てて駅に行った。


 ここ最近は何時も夕鈴のアパートの前で帰りを待っていたけれど、夕鈴は残業、僕もトラブルの対応で昨日はどうしても行けなかった。
浩大を向わせようかと思ったけれど浩大も浩大で手が空かず、何とか自分の仕事が終わってからアパートに行ってみると部屋の電気は消えていたし、時間を見ると既に深夜で眠ってしまったのだろうと判断して帰宅した。
そして今朝、珍しくギリギリの時間に出社してきた夕鈴を見て違和感を覚えた。
おかしい所が何点かある。
まず、何時も通りお茶を運んできた時の声が枯れている気がしたのと顔が何時もより赤くて青かった。
その後、注意してその後の夕鈴を観察していると時折苦しそうに俯いている。
そして何より昨日と同じ服。
あきらかに様子がおかしい。終業のチャイムが鳴ると何も言わずにコートを羽織って出て行く夕鈴を追いかけた。
ふらふらと廊下を歩いている夕鈴の両肩を掴み、人気のない場所に連れ込んでみるけれど、特に反応が無い

「今日は抵抗しないの?」
「せん・・・ぱい?」

その言葉で自分が学生時代、夕鈴にそう呼ばれていた事を思い出す。
そしてその言葉を言ったあと、力が抜けてしまったように僕にもたれかかってきた夕鈴の体の熱さに吃驚する
おでこに手を当ててみるとかなり熱く声を掛けても反応が無く、早い段階から調子が悪いのは分かっていたのにそのままにしていた事を悔やんだ。
夕鈴を抱え、会社の裏口から出てタクシーを拾い車内でメールを打っているとあっという間に僕のマンションに付いた。
部屋に入りコートを羽織ったままの夕鈴を自分のベッドに寝かせると手に持っていた2人分の鞄が床に落ちてしまった。
すると鞄が落ちる時に普通はしない音が耳に届き、その方向に目をやれば僅かにあいた鞄の口からあのマグカップが床に転がり落ちていて、そのマグカップを見て手が止まった。
ひとまずカップはそのままにして夕鈴の着替えを持ってくる。
「夕鈴、夕鈴? 起きれる?」
声を掛けても反応が無い彼女をどうやって着替えさせようか?
コートを脱がせるとスーツが出てくる。いや、それはあたり前の事なのだが、問題はこの後だ。
夕鈴の体の上に予備のシーツをかぶせると手探りでスーツを脱がせ、体を暖めたタオルで軽く拭きながらパジャマを着せた。
ようやく夕鈴の着替えが終わり、悶々としているとマンションのチャイムが鳴る。
「はいこれご注文の品」
浩大がいくつかの荷物を持って扉の前に立っている。
自分の家のように躊躇無く入ってくるが今はそれに対して何か言っている暇はない
「悪いけど冷蔵庫開けさせてもらうヨ?」
「ああ」

浩大に持って来るように言った点滴を夕鈴に打ち、電話で李順と打ち合わせが終わると丁度浩大がお大事にと言いながらリビングのテーブルの上に花瓶に活けた花を置き、帰る所だった。
今は冬だというのに活けられていた花はチューリップで、赤、黄色、ピンク、紫、白と色とりどりの風船の束みたいだった。
何となくその花瓶をベッドサイドに置き、鞄から覗いていた夕鈴のマグカップも花瓶の横に並べる。
看病の合間、それらを眺めていたらそのカップはもう一つあった事を思い出した。
ベッドサイドの常夜灯で僅かな光に照らされているチューリップと2個のカップそして時計
それらを見つめ、昔を思い出しながら夕鈴の額に代えの氷嚢を置き、体温を計るために胸元に手を置く。

「・・・せんぱい?」
「・・・ごめん、起こしちゃった?」
首をゆっくり横に振る夕鈴から出てくる僕を呼ぶ声は昔のままで、高熱で意識が朦朧としているのだろうか?
目が虚ろだった。

「どうして先輩がここに?」
「君こそ風邪を引くなんて珍しいね? どうしたの?」
「・・・公園」
「公園? 昨日公園にいたの?」
夕鈴は頷く。
「どうしてそんな所に?」
「部屋に帰ったら明るい光が急に差し込んできて、怖くてカップだけ持って逃げて、昔の事思い出して。昔? どうして今なのに昔? カップも2個ある・・・」
「・・・もういいよ、熱が少し高いから休もう?」
ゆっくり休んでと言ったのに夕鈴は体を起こし、僕に抱きついてきた
「先輩は私に手の届かない人で、諦めたけど、本当は諦めたくなかったです・・・」
前触れの無い告白に体が動かなくなる
「僕も昔、君の事を考えすぎて後悔した。もう後悔はしたくない」

それから朦朧とした意識しか持たない夕鈴に何も伝わらないと分かっていても今まで隠していた思いを素直に言う。
2人の大学時代の事、会社で働いていたら暫くして夕鈴が入社するとの知らせを受けて驚いたけれど嬉しかったこと。
でも避けられ続けた日々が辛かったと言えば「ごめんなさい」と返ってくる
普段は僕に対してだけは素直じゃ無いのに、こういう時だけ君は素直で
「ずるい」
「お互い様です」
「・・・もうゆっくり休んで?」
「寒い・・・。寂しい・・・」
「傍にずっといる」

そう言って掛け布団を肩までかぶせ軽く胸の辺りをぽんぽんと叩くとようやく眠ってくれた。
再度胸の辺りの素肌を触り体温を確かめる。体温は39度後半くらい。
早く良くなってと願いながら置かれていた時計を見ると針はもう深夜を指していて、僕も少し仮眠を取る事にした


-*-*-*-*-*


風船 4

スポンサーサイト
Secret

訪問者

検索フォーム

RSSリンクの表示

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。