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猫階下の花嫁



白陽国SNSの某所で出来上がったお話。

事の始まりは、ぴいこさんの娘さんが狼陛下の花嫁を「猫階下の花嫁」と読み間違った所からです。
そしてひなたぼっこさんがお話をはじめ、リレー小説形式でひなたぼっこさん、ぴいこさん、ボロで続きを書きました!

私はあまり参加していませんが・・・w

お楽しみいただけたら幸いです~。






大家としてやってきた夕鈴は、そのアパートの異様な光景に思わず息を呑んだ。

それもそのはず。

そのアパートには溢れんばかりの仔猫達が、にゃあにゃぁと所狭しと鳴いていたからだ。

夕鈴はしばらく固まって、場所を間違えたかなと不安に思った時。

「やあ、君が新しい大家さん?」

そう言って紅い瞳で妖艶に笑う男性が、声をかけてきた。

それはこのアパートの主だったが。

この後夕鈴は、この男性からもう一つの仕事をさせられる事となる。


「えっと……、大家さんの仕事って何をしたら?」
「特に何も無いよ。皆が楽しく暮らせるように見守ってくれればそれで」
「皆……って、この猫ちゃん達ですか?」
「そう」

 二人の会話は、猫達の鳴き声により顔をうんと近づけないと聞こえない。それくらい猫の声が賑やかなのだ。

「猫と一緒に暮らすんですか?」
「そう……。それと、もうひとつ、ね」

 黎翔の笑みに、夕鈴は背筋がゾクっとした。



その紅い瞳にまっすぐに見つめられ。
夕鈴は何も分からないのに、思わず頷いていた。

「じゃ、決まり。今日から宜しくね、僕の花嫁さん♪」

先程とはうってかわった態度に、夕鈴は呆然として、その後はっと気付く。

「・・・・え?・・今、なんて・・?」

混乱する夕鈴を気に止めることもなく、その男性は瞳の奥を光らせて。

「あ、猫達は二階、僕たちの住まいは一階だから。」

そう楽しそうに笑った。

ようやくその言葉の意味を理解した夕鈴は、思い切り首を横に振るが。
そんなことは意に介さず、夕鈴を部屋の中へ連れていく。

パタンと部屋の扉が閉められて。

こうして夕鈴の受難の日々は始まった。




「あの……大家さん?」
「黎翔でいい」
「じゃあ、黎翔さん。これはいったい……」

 ねこアパートの主、珀黎翔の膝の上で夕鈴はたずねた。

「ん?何かおかしい?」
「だって、毎日膝の上に座るって……」
「夫婦なんだから当然でしょ?」
「その夫婦ってなんですか?私は大家として」
「うん。大家。大家は夫婦でする決まりだから」
「そんな!」

 その時、二階で猫達が騒いだ。

「猫ちゃんが……」
「あぁ。気にしなくていい」
「そうなんですか?随分たくさん飼っているんですね」
「いや、飼ってはいない」

 その言葉に、夕鈴は(ペットじゃなくて家族って事なのかしら?)と思った。それをよんだかのように、黎翔はいった。

「家族とかでも無いよ。ーーーー、部下、かな」
「部下?!」

 夕鈴は、ぎょっとして振り向いた。

「夕鈴、皆を助けて欲しい。君が猫になる前に」



「え?・・・今、なんて・・?」

夕鈴は黎翔の言った事が理解できず、目を見開いた。

「んー、話すと長くなるんだけど、ここの猫達は元は皆人だったと言えば、君は信じるかい?」

突然の黎翔のその言葉に、夕鈴は耳を疑う。
しかしその言い振りからして、それが嘘とは思えなかったが、にわかには信じられる話でもなかった。

「百歩譲って、この猫ちゃん達が元は人だったとして、どうして私まで猫になっちゃうんですか?」

そこで夕鈴は当たり前とも言える疑問を投げ掛けたが。
当の黎翔はそんな夕鈴を訳もなく抱きしめ、耳元で囁いた。

「これは僕と君が結ばれないと、解けない呪いなんだ。」




「ある男の話を聞いて欲しい」

 黎翔は、夕鈴を膝に乗せたまま話出した。

「その男は、ある日突然金と地位を手に入れた。周りはそれを狙うものばかりで、誰も信じなくなり、周りからは一匹狼と呼ばれていた。

 そんな男の元に、ある日一匹の猫がやって来た。男は、猫を冷たく追い払った。

 それが悲劇の始まりだったんだ。

 その猫は魔法使いだった。

 そしてその魔法使いは言った。『真実の愛を知らなければ、お前は真の一人ぼっちになる』と。

 男はそんな話を気にも留めなかった。すると部下の一人が猫になったんだ。

 その日から、男に関わった人間は猫になる。それは、男が愛を知るまで終わらない。
 男が愛を知らないと、世界中の人間が猫になるんだ。

 だから、君と結ばれたい。真実の愛を知りたいんだ」

 夕鈴は絶句した。そんな話、信じられるはずは無い。
 しかし、黎翔の目は真剣だ。

 その日から真実の愛を探す日々が始まった。
 夕鈴は真剣だった。しかし、黎翔は夕鈴を利用するつもりでいた。この時はまだ。
 



それからの夕鈴は『真実の愛』を口実に、黎翔から過剰なまでのスキンシップに翻弄されていた。
昼間は猫達の世話や、アパートの掃除、それにこの真実の愛を探す黎翔のお手伝い。
夜になるとクタクタで、倒れるように眠る毎日だったが。

ある夜、夕鈴は誰かの話し声で目が覚めた。
窓から外を覗いて見ると、月明かりの下で話す男性が二人。
一人は黎翔と確認できたが、もう一人は見た事のない顔だった。

夕鈴は何となくそれを見ていたが、仄かな月明かりを雲が遮った時。
夕鈴はわが目を疑った。

それもその筈で。
先ほどまでは黎翔と話していたその男性が、みるみる内に猫に変わってしまったのだ。

「・・・・・・・なっ・・・!!」

目の前で起こった事を、脳が理解する事を拒むかのように。
夕鈴はそのまま眠りに落ちた。




 翌朝、夕鈴はいつもの様にベッドで目を覚ました。

 未だぼんやりとした頭で考える。昨夜見たものは夢だったんだろうか、と。

 しばらく悩んだ末、本人に聞くのが早いと言う結論に達した。
 本猫って言うべきかしらと考え、夕鈴は小さく笑った。

 部屋を出ると、リビングで黎翔が既に寛いでいた。夕鈴は、戸棚を開きながら声をかけた。

「おはようございます。黎翔さん。
 上の皆にご飯あげて来ますね」
「……あぁ。頼む」
 黎翔は、階段を登る夕鈴の後ろ姿をじっと見つめた。
 確かに、二階はいつにも増して騒がしく、食事の催促をしている様だ。しかし、黎翔が引っかかったのはそこではない。
 夕鈴は、上の皆と言った。猫ちゃんではなく。
 黎翔は、計画が順調なのだと 笑みを浮かべた。

 一方その頃、二階に上がった夕鈴は、食事を皿に乗せると、辺りを見回した。
 昨日の猫は直ぐに見つけた。月灯りの下では人間の姿だったあの猫だ。ちょうど向こうも、様子を伺う様にこちらを見ていたのだ。

 夕鈴はそっと近づいた。猫は逃げない。頭を撫でようとして、手を引く。相手がもし本当に元人間ならば、それは失礼極まりない行為に思えたのだ。

「えっと……。おはようございます。言葉がわかりますか?」

 夕鈴の言葉に、猫は否定も肯定も示さず、ただ静かに耳を傾けていた。

「もしわかったら、今夜私と会っていただけませんか?月灯りの下で。」





その日の深夜、夕鈴は近くの公園のベンチで一人座っていた。
誰かに見られる危険性はあったが、より長く月明かりを浴びていられる方がいいだろうと思ったからだ。

やがて一匹の猫が姿を現し夕鈴の目の前できちんと座る。
雲が晴れ、月明かりがその猫を照らすと、姿がみるみる内に猫から男性へと変化する。

「この姿では始めまして、とでも言えばよろしいでしょうか?」

眼鏡をかけ、長い髪を後ろでひとつに纏めている。

「は、初めまして。汀夕鈴といいます」
「私は李順。黎翔様の秘書・・・の、ような事を担当しています」



「秘書……。本当に、人間なんですか?」
「化け猫だとでも?」
「いえ!そんな……」
「いいんですよ。呪いのせいで人間が猫になるだなんて、信じられなくて当然です。
 私も信じられませんでした。自分が猫になるまでは」

 夕鈴ははっと息を飲んだ。分厚い雲が空を通り、李順の姿が猫になり、また人に戻ったのだ。
 李順の顔に滲む切なさを見て、夕鈴は力になりたいと思った。

「その、呪いは本当に解けるのですか?」
「ええ。そう聞いていますが。」
「真実の愛を探すんですか?」
「はい。」

 黎翔の話しは嘘ではないようだ。あの、過剰なまでのスキンシップにも意味があったのなら、悪いことをしてしまった、と思った。その時、夕鈴は不意に背後から抱きしめられた。

「きゃあっ!」
「私に隠れて他の男に会うとは。君は妻としての自覚が足りないのか?」
「妻って……!私は、ただ……」
 夕鈴が目を向けると、李順は影を選び猫になって姿を消した。
「呪いの事を聞いたか」
「はい」
「ならば、話しは早い」
 そう言うと、黎翔は夕鈴を抱き上げるとアパートへ戻り、そして黎翔の部屋のベッドへやや乱暴に夕鈴を下ろした。

「きゃっ!何を?!」
 戸惑う夕鈴の顔の両脇に手をつき、黎翔は上から見下ろした。
「“真実の愛”を確かめようではないか」
 冷たい視線に射抜かれ、低い声で囁かれ、夕鈴は背筋がゾクっとして硬直した。
 黎翔の顔がゆっくりと降下し、唇が重なろうとしたその時ーーーー。

「これは、愛なんかじゃないわ」
 夕鈴は、黎翔の口を手で押さえた。
「身体を近くしても、心は動かない。
ーーーー、だって、黎翔さんは私が好きじゃないから」

 黎翔は、目を丸くした。甘い言葉を囁けば、女など簡単になびくと思っていたのだ。

 瞳いっぱいに涙を溜め、黎翔を押し返そうとする手は震えている夕鈴を見て、黎翔の中で何かが動いた。
 



今までこんな気持ちになってしまった事は一度もない。

呪いをかけられて以来、黎翔も最初の内は懸命で探した。その『真実の愛』とやらを。

しかし、選んだ相手が悪かったのか、たまたまそんな女性が続いただけだったのか。
アパートの猫の世話をするよう頼むと嫌そうな顔をする女性達が。
『ある男の話』を聞いた途端、目の色を変えて擦り寄ってくる。
呪いを解く為、などと言ってはみても、背後にある金や地位を狙っているのは明らかで。
黎翔は何度もそんな経験をして、その内に一人また一人と部下達が猫に変わっていく。

何も出来ない自分と、形ばかりの『真実の愛』をつきつける女達を見て。
黎翔は“女性”というものに嫌悪感すら抱くようになっていった。

結局こいつらが欲しいのは、金だ。

そんな想いが心を支配して、気が付けば部下は一人を除いて全て猫になってしまっていた。

そんな中、どこから探し出して来たのか。
人間のままの最後の部下で相談役の、老師と呼ばれるほとんどご隠居の爺さんが、猫になる前に連れてきたのが。
この娘、夕鈴だった。

この娘もどうせ同じだろう。
そう思って黎翔はいつものように『ある男の話』と『真実の愛』の話をした。
自分の背後にある金が欲しいなら、喜んでその身を差し出すだろうと。

それなのに。

「―――――――、だって、黎翔さんは私が好きじゃないから」

そう言い涙を溜め、自分を震える手で押し返し、それでも懸命に訴える。

「こんなの『真実の愛』なんかじゃない。」

繰り返し、それを強調するかの言い振りに、黎翔の中で何かが動いた。
しかし、その何かの正体が分からず、黎翔は自分の気持ちに業を煮やす。
と同時に、まるでこの娘が『真実の愛』とやらを分かっているような口振りが悔しかった。

「では、どうすれば良いのだ。」

すっかり力が抜けて、ベッドの横に腰を下ろした黎翔に、夕鈴は優しく微笑んだ。




「それは私にも分かりません」
「―――じゃあなおさらどうすれば・・・?」
「それをこれから2人で見つけましょう? 駄目・・・でしょうか?」

月明かりを背に、明りの無い部屋で浮かび上がる夕鈴の表情は穏やかだった。
その表情を見て黎翔は涙が零れ落ちそうになる。だが、人前で泣くわけにはいかない。
夕鈴をそっと腕の中に閉じ込め、自分の表情を見られないようにして静かに泣いた。

それからというもの、時間が許す限り同じ時間を2人は過ごすようになる。
夕鈴が何か家事をしていると黎翔がさりげなく手伝い、夕鈴はそんな黎翔に笑いかけるようにした。
2人きりで外に出かけた事もある。その度に動き回る夕鈴を黎翔はハラハラしながら見守る。

「夕鈴あまり走らないでくれ、転びそうだ」
「子供じゃないんですから、転びません!」

過度のスキンシップは相変わらずだが、そのスキンシップの中に優しさが紛れ込むようになった。
最近よく笑うようになった黎翔を見て猫たちは少し戸惑う。
狼と例えられるくらい冷たい表情や態度を取らない主人が、まさに小犬と言わんばかりの表情しかしなくなったからである。




 猫たちは、黎翔の変化だけではなく、夕鈴と言う少女にも驚いていた。
 なんと彼女は、猫たちを夜のお茶会に招待したのだ。

 月明かりの下で、次々と人の姿に変わる猫たちに目を丸くしながらも、喜んだ。
「たまには人間のお食事も食べたいかと思い、ご用意しました。お口に合えばいいんですが」

 夕鈴の言葉に、一目散に手をつけたのは小柄な男性浩大だ。
「おっ!美味いっ!うん。懐かしい味だナ?」
 その言葉に、他のもの達も食べ始める。夕鈴はおずおずと尋ねた。
「如何ですか?」
「まあ、まずまずと言ったところでしょうか」
と、評価したのは李順。黒い長髪を一つに束ねた男性は、眉をしかめながら「どれもぬるいな」と、呟いた。
「あ、すみません。猫舌かと思って冷ましてしまいました」
「月明かりの下では、普通の人間だ」
 そういいつつも、その男方淵も夕鈴の気遣いを理解していた。

 夜のお茶会で、夕鈴は猫たちの名前を覚えた。

 猫たちは思った。彼女ならば、呪いを解いてくれるかもしれない、と。

 しかし、時は無情であった。

 ある日、夕鈴は頭に違和感を感じていた。知らず知らず頭に手が行く。それに気がついた黎翔は、問いかけた。
「夕鈴、どうかした?」
「ううん、なんでもないです」
 答えながら、夕鈴は嬉しそうに笑う。そんな夕鈴を抱きしめながら黎翔は尋ねた。
「どうしたの?楽しそうだね」
「はい。だって、黎翔さんが気にかけてくれたのが嬉しくて」
 確かにそうだ。以前の自分なら夕鈴の変化を見過ごしていたかもしれない。自分はかわれたのだろうか。

「全て君のおかげだ」
 腕に力を籠めたその時、「ん!」夕鈴が突然腕の中で頭を抱えた。
「夕鈴?!どうした!夕鈴!」

 黎翔が、夕鈴を抱き起こすと夕鈴の頭から猫の耳が、生えていた。
 



夕鈴の耳としっぽ、それを見た黎翔は強い痛みを胸の奥で感じる。

「ごめん、もういい、もういいよ」
「黎翔さん?」
「これ以上、君はここに居てはいけない。代わりの部屋を大至急用意するから、すぐに出て行くんだ」
「え、でも…!」
「今ならまだ間に合うかもしれないから早く…!お願いだ」

苦しそうな黎翔表情を見て、夕鈴も胸の奥に痛みを感じた。

「私が出て行って、黎翔さんや猫ちゃん達はどうするんですか?」
「…代わりの子を探すだけだよ。君みたいな騙されやすい、無垢な女の子をね」

後ろを向いて冷たい声でそう言い放つ黎翔。その表情はうかがいしれない。
夕鈴はその大きな背中を見つめ、静かに涙を流した。
やっぱり自分はこの人に、都合のいい女でしかなかったんだ。
溢れ出る涙をぬぐい、適当に荷物を詰めてアパートを飛び出す。

「黎翔さんの、黎翔さんの馬鹿!!!大っ嫌い!!!」




 再び独りになった黎翔は、何もせずソファに座り込んでいた。あっという間に日は落ち、室内には月明かりが射し込んでいる。

「これでいいのかよ」

 突然声をかけられたが、黎翔は顔を上げない。

「今度の大家ちゃんは、今迄と違う。それなのに、こんなに簡単に手離していいのか?」
「今迄と違うからだ」
 責める様に問いかけた浩大に、黎翔は狼の様に鋭く言い捨てた。
「夕鈴は、今迄の女達とは違う。だから、猫になんてしたくないんだ」
 弱り切った狼のような黎翔に、浩大は微笑んだ。
「最初からそう言えばいいのにサ」
 猫になる前は、黎翔の片腕だった浩大は影の中で黒猫になり姿を消した。

 しばらくして、ニャアと言う鳴き声に戸を開けると、黒猫の浩大の隣に真っ白な猫がいた。

「ゆう、りん、なのか……?」
 黎翔は、膝をつき震える手で白猫を抱き上げた。

「すまない、夕鈴。こんな姿にしてごめん。それでも、君と一緒に居たいんだ」
「それは、本当ですか?」

 その声に黎翔が顔を上げると、未だ猫耳姿の夕鈴が立っていた。

「私も……、黎翔さんと一緒に居たいです」

 影の中、黒い猫が優しく二人を見つめていた。
 



「夕鈴・・・!」
「黎翔さん!」

夕鈴は黎翔に体を摺り寄せながら尻尾をゆっくりと振る。
どちらも猫が機嫌がいいときにする仕草。黎翔はクスリと小さく笑った。

「僕の事、大嫌いじゃなかったの?」
「ごめんなさい、嘘、ついてしまいました」

夕鈴に抱きしめられ、黎翔はまた泣きたくなった。
好きな人に触れられただけで泣きたくなる。
胸の奥に閊えがあるが、苦しくはない。むしろ嬉しい。
苦しさが嬉しいだなんてはじめての感情だった。

ああ、そうか、人を好きになるってこういう事なんだ。
夕鈴を抱きしめながら黎翔はそんな事を考えていた。

「黎翔さん、私もう嘘はつきません。だからどんな姿になってもいいです。傍にいさせて下さい!」
「・・・むしろこちらからもお願いするよ。夕鈴」

体を少し離し、夕鈴の顎を掴む。唇と唇が近くに接近し、触れそうで触れない位置で黎翔は囁いた。

「夕鈴、ありがとう。君の事が―――」




―――――“好き”

その言葉は夕鈴の唇に吸い込まれ、自然に二人は唇を重ねる。
少しの間、ただ重なっていただけだった唇を、二人は角度を変えて何度も重ね。
その内にそれは徐々に優しく深くなり、どちらからともなく舌を絡ませ、吐息を熱くする。

しばらくの間、そうしてお互いの気持ちを確認するかのように唇を重ねていたが。
ようやく二人は名残惜しそうに唇を離し、溢れんばかりのこの想いにお互い見つめ微笑み合う。

「そうか、これが『真実の愛』か・・・。」

誰かをこんなに愛しいと思ったのが初めてなら、誰かを想って苦しくなる事も初めてで。
黎翔は自分の中の、説明出来ない初めてのこの想いに。
納得するかのように、呟いてみた。

その瞬間。

夜だというのに辺り一面が不思議な光に満ち溢れ。
その光は見る見るうちに、アパート全体を優しく包んだ。



「夕鈴!」
 庇う様に抱き寄せようとするとそこに夕鈴はおらず、黒いローブ、猫耳がついたフードをすっぽりと被ったあの時の魔女がいた。

「夕鈴を何処へやった?!俺はどうなってもいい!頼むから夕鈴を返して欲しいっ!」
 己の身など顧みないその言葉に、魔女はそこだけ出ている唇を曲げて微笑むと、ゆっくりとフードをとった。

「なっ!!夕鈴?!」

 そう、フードを被った魔女こそが夕鈴だったのだ。

「驚きました?」
「どう言うことだ?なぜ君が……」
「今は二股尻尾の猫になった老師がいるでしょ?なんとか呪いを解かせようとした老師に、新たな呪いをかけようとしたら、逆に呪い返しにあって記憶が無くなってしまっていたの。」
「じゃあ、部下達は……」
 夕鈴がにっこりと笑って人差し指を振ると、二階で歓喜の声が上がった。
「周りの人の事も考えるようになったのね。」
 そう、嬉しそうに笑う夕鈴を黎翔は、強張った顔で見ていた。それに気がついた夕鈴は、少し淋しそうに言った。
「私の事、もう、嫌いになった?」
 黎翔は、夕鈴を嬉しそうに抱きしめた。
「君がどんな姿でも、 構わないと言ったはずだ」
 そして、耳元で囁く。
「もう離さないよ、夕鈴」

 完全な人間に戻り、階下に降りてきた部下達が見たのは、それはそれは熱く長い口づけだった。



「ねえねえ、夕鈴」
「はい、なんですか?」
 二人は顔を寄せて会話をする。そうしないと、二階の猫の鳴き声に負けてしまうからだ。
 部下達は、一人残らず人間になった。しかし、いまだ二階には猫がたくさん住んでいる。実は、部下に紛れて本当の猫も暮らしていたらしい。
 と言うわけで、夕鈴は今日正式に猫階下の花嫁となった。

「一つ聞いていい?」
「どうぞ?」
「夕鈴は、いつ記憶を取り戻したの?」
「それはーーーー、」
「それは?」
「ヒミツ」


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白陽国から来ました。

今晩は。楽しいお話をありがとうございます。

いらっしゃいませ

いらっしゃいませ、このような辺境の地まで足をお運び頂いてありがとうございます(*´Д`)

楽しいと言って頂けると次を書こうと言う威力になります♪
ありがとうございました。またお越しくださいませ(^_-)-☆

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慧ネンさんへ


いやいや、普通に入って来ていただいてよかったんですよ?w
あそこはそういう所なので(^_-)-☆
メッセは普通に24時間何時でも送っていただいて大丈夫です!
お待ちしていますヾ(´∀`*)ノ
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