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花の贈り物 前編


サクラ咲くの管理人 ひなたぼっこさん とのコラボです。
今回特にオリキャラが入り乱れています。
苦手な方はこの時点でバックしてください。


【注意&設定】
*[黎翔×夕鈴]未来・本物夫婦設定

※浩大、既婚設定故のオリキャラ(零:浩大の嫁)出ます
※浩大の部下設定、陽(ひなたぼっこさん家)、御影(ボロ家)のオリキャラが出ます
※少しだけ、暴力的表現あります


かるくオリキャラ説明

【浩大のお嫁さん】
☆名前・零(れい)
☆夕鈴の侍女
☆隠密の家に産まれるも、精神面から隠密にはなれず
☆でも戦闘は強い

興味のある方は「浩大の結婚」や「出逢い」なんかを読むとよく分かるかもです。


【浩大の部下】
☆名前・陽(よう)
☆浩大の幼馴染で共に訓練を受ける
☆浩大より3つ年上
☆頼りになる年上の部下
☆現在は浩大の右腕的存在

興味ある方は「古傷」や「桜と共に」なんかを読むとよく分かるかもです。
が、こちらはどちらも哀しく真っ暗なお話なので、苦手な方は読まない方が良いかもです。
【ボロ様宅の浩大の部下】
☆名前・御影(みかげ)
☆以前刺客だったが、色々あって浩大の道具(部下)に

ひなたぼっこさんのオリジナルキャラクターに興味のある方は、ひなたぼっこさんのお家に行ってみてくださいね。

それでは前編どうぞ。



浩大は暗闇の中、目を開けた。
研ぎ澄まされた感覚と、冴え渡った五感。
これがいつもと同じという事は理解できた。
ただ一つだけ、いつもとは違う事。

それは、自分が一体どこの誰なのか。
いくら頭を捻っても、その断片すら思いだす事は出来なかった。

・・・・・・ここは、どこだ?
・・・・・で、俺は・・・・・・・・・誰なんだ?

ここは闇に包まれた部屋、視界が無いこの状態で自分の置かれた状況を確認する。
体には目立った怪我はない。ただ頭が少し痛い。

苦虫を噛み潰したような気分で脱出口を探す。
僅かな風を感じ、その方向の壁を手探りで伝えばようやく出入り口を見つけた。
軽く押しただけでは、びくともしない扉に体当たりをするとそれは簡単に崩壊し、光が差し込んできた。

明るくなった部屋を見渡すと、ここが古びた邸だと分かった。
中が暗闇だったのは窓と言う窓に板張りがされていたため。
邸の周りはうっそうとした木々に囲まれていて、昼間だというのに薄暗い。
明らかに、自分を阻害しようとした誰かの仕業なのだろうと思った。

そこでふと気付く。
「誰か」が「自分」を阻害している?
その「誰か」はもとより「自分」の事さえ分からないというのに。
当たり前のように答えを導いた自分の思考に溜息を落とし。
「これ」が自分の日常なのかもしれないな、と邸から足を踏み出し外に出た。

面白い。それなら、本能の赴くまま進んでやろうじゃねぇの。
浩大はニヤリと笑みを湛え、薄暗い木々の中を駆け出した。

森を抜けると大きな河にたどり着き、河沿いの木の上を浩大は移動する。
何処へ行くのか、何処へ向かっているのか分からないまま走り続けた。

途中何度か休憩を取った。休憩とてただ座っている訳ではない。
傍に落ちていた枝を拾い重石をつけ、先を尖らせておく。何があるか分からない。武器はいくらあってもいい。
服の中にあった毒の小瓶。枝の先に毒を付け、懐にしのばせておいた。

そうして数日間、本能のままに歩くと遠くに何かが見えてくる。

遠目から見ても分かる程の、大きな邸、いやその佇まいはまるで城のようだった。
城といっても、実際に見たことがあるわけではないが、いや、覚えてないと言った方が正しいのかもしれない。
とにかく城のようなその建物は、知らないはずなのに、何か懐かしいような感覚を覚え、同時に安堵の溜息が漏れた。
知らず零した溜息に気付いた浩大は、自身の本能が間違っていない事を確認する。
だけど、本能で帰れるって、ますます俺は何モンだよ。

苦笑しながらも、己の正体を不審に思う自分を心で笑った時。
誰かの気配を感じ、反射的に武器に手をかけた。
その人物は浩大と同じように、木の上から辺りの様子を伺っていたが。
浩大に気付いている様子はなかった。

俺の方が、上だ。

そんな自分の本能を信じ、気配を殺してその人物の後ろに回る。
「この辺だと思ったけど。」
そしてその人物がボソリと溜息と共に呟いた瞬間。
後ろから首に腕を回し、尖った枝の先をその喉元にあてる。
お前は誰だ、そう聞こうと思った矢先。
「筆頭!?・・・・ご無事でしたか。」
驚きの色を見せながらも、その人物は浩大に向けて安堵の言葉を投げかけた。


浩大は予想もしなかった言葉に驚くが、すぐに体勢を立て直した。
後ろに跳び、枝を捨てクイナに持ち替える。
全身に警戒の空気を纏うとそのまま話を始めた。

「お前誰?」

自分の事を呼ぶが名前ではない。
大分親しい間柄なのかと思うが、自分の事が何も分からない今は小さな油断が命取りになる。
簡単に信用するわけにはいかない。
暫く警戒の体勢を取ったまま睨み合っていたが、急に浩大は警戒を解いた。

「お前、俺の仲間? その割には隙だらけだけどネ?」

見知ったような風景の近くに現れ、自分の事を気遣う男。
それに枝の毒がこの男には効かなかった。
少なからずこの毒に耐性があると言う事は、仲間の可能性は捨てきれない。

浩大の葛藤を見てとった陽は、訝しげに顔を歪め何かを考えているようだった。
そしてこれまでの言動から陽は一つの結論に至るが、それはにわかに信じがたい事だった。
それでも聞かない事には始まらないから、陽は恐る恐るその不安を口にした。

「筆頭、まさかとは思いますが。私が誰だか分からないんですか?」

陽は不安の色を露わにして尋ねるが、浩大はそれには答えず一定の間合いを取る。
その間合いを見て、陽はその異変を不安から確信へと変えた。
まずは自分が敵ではないと、浩大に認めさせるところから始めなければいけない事実に、陽は頭を抱え。
さて、どうするかな、と思考を巡らせる。
しかし厄介な事とは重なるもので、陽が自分の武器を手離そうと手をかけた時。
不穏な気配が二人の周りを包んだ。

周りに広がる怪しい気配を感じた時、顔色を変えず溜息を落とした陽を見て。
浩大は本能で、目の前のこいつは敵じゃないと悟る。
先程までは隙だらけだった男が、怪しい気配を感じ取った瞬間、隙をなくして身構えたから。
自分には隙を見せても大丈夫という絶対の信頼があるからこそだと、浩大は感じ。
それと同時に、そんな事が分かる自分に苦笑し、無意識に陽に目で合図を送る。
陽もその合図を受けて、浩大と背中合わせになるように移動して武器を構えた。


互いの死角を補いつつ、状況確認をする。敵の数は10人くらい。
普段ならば余計な仕事が増えたと溜息の一つも付きたい所だ。
しかし陽はこの状況に少し感謝していた。何故なら浩大に自分が味方であるという事を認識させる事ができたからだ。
刺客から動いたのを合図に戦闘が始まる。

陽は向かってきた相手の肩を土台に跳び、刺客のバランスを崩す。
背中に短剣を土産に刺しておいた。

地に足を付ければ、複数人で向かってくる刺客達。
その合間を陽がすり抜けると、鋭い鎌を持つ窮奇が通り抜けたかのごとく、刺客の体に深い傷がついた。
傷は深いが致命傷にならない。独特の攻撃方法だった。
土を掴んで相手の目を潰し、足にも傷を与えると次に取り掛かる。

浩大の事は気にならない訳ではない。
しかし彼に記憶がないとしても、戦場では他人の気遣いは無用だという事が暗黙の了解。
多少苦戦したが順調に数を減らし、敵は残り僅かという時にバランスを崩してしまい、土がついた。
“しまった”と思い、身構えると同時に切りかかってきた刺客が崩れ落ちる。
何故だと見れば、首には先ほど浩大が手にしていた枝が刺さっていた。
あの人はそういう人だ。情けは無用だと言いながら情けを掛ける。
飛んできた方向に目をやれば、体勢を崩し地面に這いつくばる浩大に、刺客切りかかろうとしている光景が目に入ってきた。
「筆頭!」

刺客達の指令役と思わしき男と浩大は戦っていた。
相手は長剣、浩大は短いクイナ。先ほど作った簡易的な枝の手裏剣が一本。
クイナで剣を受け止めながら、どうしたら致命傷を与える事が出来るかを探っていると、陽が切りつけられそうになっている光景が目に入ってきた。
不味いと思い標的を変え、枝を投げる。その隙に足払いを掛けられてしまい、地面に倒れ込んだ。
長剣が太陽の光を反射し、思わず目をつぶった瞬間だった。
しかしいつまで経っても剣は振り下ろされない。恐る恐る目を開けると、刺客の喉には手裏剣が一本。
全身を震わせながら体を硬直させていた。


浩大とその場にようやく到着した陽が硬直した刺客を縛り上げ、振り返ると、そこには無言で佇む男がいた。
瞬時に警戒の色を濃くして身構えた浩大とは対照的に、肩の力を抜く陽。
それを見て、こいつも敵ではないのかと浩大は警戒を緩めた。

「御影、助かりました。で、守備は?」

御影は浩大をチラリと見やると、陽の質問に頷いて守備が整った事を知らせる。
浩大には二人の男達の言う「守備」が何の事なのかもさっぱり思い出せず。
自分の置かれた状態に痺れを切らしながら、記憶を失っている事を、そう簡単に口にして良いものか慎重に考える。
敵ではないとは思う。
だけど果たして、味方と簡単に結論づけて良いのか。
そこは悩むところではあるが、二人の口ぶりからして時間に余裕がない事も窺い知れる。
浩大は未だ痛む頭で考え、それでも踏ん切りがつかずに二の足を踏んでいると。

「・・・それより様子がおかしく?」

御影がその疑問を陽に投げかけた。

「ええ、後で詳しく見てもらう必要があるようです。が、その前に後片付けをしましょう」

共に戦った陽が警戒する事なく会話をしている様子を見、御影を味方だと浩大は認識した。
しかし妙な蟠りが胸に残る。少しの警戒心を残し、後片付けが終わると王宮へと戻る。
これから出会う人物は全て敵か味方か判断していかなければならない。
記憶があればこんなに面倒しなくても良かったのにと、苦虫を噛む思いだった。

王宮に戻ると御影は音もなく消えていき、浩大は陽と共に後宮の老師の元に足を向ける。
途中の風景を見て、再度懐かしい感覚に襲われ、やはりここに自分は居た事があると確信する。
その頃、黎翔は淡々と書簡を捌いていた。窓枠に小石がぶつかる音がして、李順は人払いをする。
黎翔の視線は書簡に落とされたまま、部屋に入って来た御影が報告を始めた。

「・・・陛下、浩大が戻ってまいりました」
「ふうん、やっとか」
「・・・詳しい話は後ほど老師からあると思われます」

その一言で何があったかを黎翔と李順が瞬時に判断する。
本来ならこの場に浩大が来るべきだ。それに加え、老師からの報告。黎翔の冷たい視線が御影を捉える。
(相変わらず、冷たい空気ですね。早くこの場を去りたいものです)
「・・・二刻ほど後、老師を連れてまいります」
「後で老師の部屋に行く。浩大とともに待たせておけ」

御影がその場から消え二刻後、黎翔と李順は老師の部屋へと足を運んだ。


御影が音もなく消え、黎翔に報告を済ませていた頃。
浩大は陽に連れられ、老師の元を訪れていた。
そこで繰り広げられる陽と老師の会話を聞きながら、これまでの事を加えて整理する。

まず、自分の名が二人の会話から『浩大』だという事が分かった。
そして一緒に戦った男が自分を『筆頭』と呼ぶ事から、自分はおそらく何かの頭なのだろう。
最初に現れた目の前の男は『陽』という名で、自分の右腕なる人物だろうと推測される。
そしてもう一人の男は『御影』という名なのは分かるが、御影に対する胸の奥での警戒心が気にかかる。
敵ではないと思うが、この警戒心の正体が分からない。

やっぱり記憶が無いってのは、厄介だな。

浩大は軽く溜息を落とし、記憶のない自分は絶対的に不利だと考える。
絶対の信頼を寄せていると思える陽が、自分の事を心配しているだろう事は態度で分かる。
このままの状態で良い訳がないし、まずは自分の置かれている状況を把握したい。
そして胸の奥にある蟠りを残す御影がいない今、それを聞くのは今だと口を開いた。

「なぁ、お前、陽だっけ?」

突然呼ばれた陽は老師との話をやめて、呼ばれた方に視線を向け次の言葉を待った。

「あー、簡潔に聞くぞ。俺は誰で、今ここで何が起こってる?」

陽は何処まで説明してもいいのか分からず、老師をちらりと見た。
コクリと頷かれるその様子を見、陽は一つずつ説明を始める。
ここは冷酷非情の狼陛下が治める白陽国、その王宮。そこには一部の人間しかしらない隠密集団が存在している。
それを取り纏める頭が浩大。その浩大が地方調査から中々戻ってこず、対応を検討していた所に戻って来た。
が、しかし記憶と調査結果は持って帰って来なかった。

「仕事できてねーじゃん、俺」
「珍しい事もあったものだな」

今まで居なかった人物の声が響き渡り、その場に居た人間が一斉にその方向を見る。
声の主は黎翔。後ろに李順が付き従っている。陽と老師は礼をとり、浩大は後ろに跳び、窓の近くの壁に背中を付けた。
黎翔は椅子に座りながら、警戒心をあらわにする浩大へ懐の小刀を投げつけるが、息をするかのようにかわされる。

「老師、陽、浩大はいったいどうした」
「どうやら人間関係の事だけ忘れてしまったようですぞ」
「目が覚めたら何処かに監禁されており、勘でここまで戻って来たそうです。武器も隠していた物しかなかったとか」

周りの人間が取る礼。そして冷たい視線。
浩大はこの人物こそが、狼陛下と呼ばれる人物、自分の主だと理解した。

「陛下・・・だっけ?あんたが俺の主人ならアンタの指示に俺は従う。俺はこの後どうすればイイ?」
「そうだな、鼠狩でもしておけ」
「了解」

音もなくその場から浩大が居なくなり、残った四人で今後の対応を話し合う。

これまで通りの事をしていれば記憶の戻りも早いかもしれないと、夕鈴の警護に付かせる事になった。
手が空いた者は、浩大が何処かに隠したであろう証拠を探しに行く事になったが、問題はその範囲。
浩大が行っていた地域とここまではかなりの距離がある。森の中に隠された木の葉を探すようだと李順は溜息をついた。

「厄介な事になりましたね」


黎翔に鼠狩でもしておけと、体よく部屋を追い出された浩大は、自嘲するかのように笑みを零した。
自分があっちの立場でも、同じ事をするだろうと冷静に考える自分と。
それでも重要な話し合いから追い出されたようにも思える事への、行き場のない苛立ちに。
本能で感じるプライドらしきものが、気に入らないと主張する。

本来なら、あそこにいるのは陽じゃなく、この俺のはず。

そんな感情が頭を擡げるが、記憶のない今、自分は役立たずだという事も分かる。
浩大はそんな自分の葛藤に蓋をして、取り敢えずは今自分が出来る事をやろうと割り切った。

それに、記憶が戻らないなら。
それはそれで、最初からやり直せば良い。
すぐに、その立場取り返してやるよ。

浩大は誰に言うともなく心で呟き、フッと笑うと口を真一文字に締め、気合を入れ直した。
まずはこの広い王宮の構造も把握する為に、ひときわ大きい樫の木に登り、高い場所から眼下を眺める。
すると、王宮の庭を挟んで隣接する、これまた広い建物が目に入った。

あの建物は知ってる、自分が行くのはあそこだ。
そんな感覚が自分を支配して。
浩大は自然とその建物の方へ足を向ける。
しばらくその建物を少し離れた木の上から見ていると、二人の女性が話をしながら出てくるのが見えた。
茶色の髪を頭上で二つに結い上げ、庭の花々を指差しはしゃぐ女性と。
その女性に付き従う、漆黒の長い髪の、小柄な女性。

その二人を見てこの建物が後宮である事と、茶色い髪の女性が自分の主の正妃だと確信し。
同時に自分の警護対象だと、認識する。

しかし浩大は正妃より、付き従っている侍女の方が気になった。
侍女にしては、隙がない。
だけど、この胸に引っかかる何かは、そういう事ではない気がした。

この感覚はなんだろうと、浩大が首をかしげた時。
黒髪のその侍女が、その場所から見えるはずもない自分に笑顔を向けた。
偶然ではないと思った。
自分がココにいると知っていて、彼女はその笑顔を向けのだと。
自惚れではない確信を浩大が持った時。
二人の様子を伺う、もう一つの気配に気付いた。


その気配の正体である御影は音もなく浩大に近づき簡潔に伝えた。

「・・・記憶が戻るまでお妃様達に声を掛けるなと」
「あっそ」

視線すら動かさずに返事をした浩大は、誰にも気が付かれないくらい小さな溜息をついた。

「で、俺とあんたは一体なんなの?」
「・・・あなたが陛下の道具なら、私はその道具の道具です」
「なんだそれ。で、あんたが俺の道具なら、あの黒髪の女は?」
「・・・本当に記憶がないのですね」
「らしいねぇ。あ、そうだここ頼むよ」
浩大は笑いながら王宮全体を把握するために走り出した。

それから数日間、昼は正妃を遠目から警護し、夜は憂さ晴らしをするかのように鼠を浩大が全て片づけていた。

そんな日々が続いたある日、夕鈴は琴、零は琵琶を四阿の中で演奏をしていた。
風に揺れる木々の中心、揺らめく水面が光を反射する池の上に建てられた四阿。
周りに遮る物はなく、澄んだ琴と琵琶の音が響き渡る。
その演奏する姿を穏やかな視線達が包み込み、耳を傾けていた。
黎翔は夕鈴を見つめ、浩大は遠く離れた木の上から零を見つめる。
そしてもう一人の夕鈴の侍女、石英の事を御影が見つめ、演奏が終わると侍女達は楽器を手に退出していく。
浩大はそちらを追いかけたい衝動にかられるが、御影が付いていったため、浩大はその場に残る事にした。

「夕鈴、君が奏でる楽の音は本当に素晴らしい。また私の為だけに演奏してほしい」
「まあ陛下ったら。褒め方が大袈裟ですよ?」
「大げさなものか、私の心を癒す事が出来るのはこの世で唯一、君だけだ」

黎翔は当たり前のように夕鈴を膝に乗せ、愛を囁き始めると浩大は溜息を付く。
そもそも黎翔がいれば護衛など必要はない。居なくなっても良かったのだが浩大には黎翔に伝えなければならない事がある。

「夕鈴、今度何か作ってくれる・・・?」
「そうですね、今度久しぶりに何かお作りしましょう」

それを聞いてさらに機嫌がよくなった黎翔は、夕鈴の長い髪を弄り始めた。
髪を弄っていた手が次第に背中を伝っていき、腰に添えられると同時に2人の唇が重なる。
団扇はいつの間にか長椅子の端に置かれ、空いた手は黎翔の衣装を握りしめていた。
誘われるようにして出てきた舌を黎翔は優しく吸い始めるが、夕鈴は逃げない。
なぜなら後頭部には黎翔の手が添えられていたため、逃げられなかった。
そもそも夕鈴が大人しく口づけを受け入れているのは、人払いがなされていると思い込んでいるからだ。
黎翔は、浩大が見ていると分かって口づけを続けている。少し離れた木の上、浩大は溜息を付きうな垂れた。

「俺、あんなのずっと見ていないといけないの?」

その後、黎翔が一人で歩いていた所に浩大が声を掛ける。

「えっと陛下? ちょっと今いい? あのさ、琵琶、あの楽器が凄い気になるんだけど、何か知らない?」

黎翔の足が止まる。今日浩大はあの黒髪の侍女、零が気になっていたからずっと見つめていただけではない。
零が弾く琵琶が気になってずっと見つめていたのだ。

「何か、思い出したのか?」
「いいや、あの琵琶を弾く義甲、それが凄く気になっただけ」

琵琶の弦をはじくその道具が、何かのヒントかと考えを巡らすが、その先に何も繋がらない。
そうして何も掴めないまま、浩大の記憶も戻らないまま、時間だけが無情にも経過していった。




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